2020/04/10
事例から学ぶ
海外出張者300人の命を守る安全管理者の仕事
情報収集は一般メディアから
同社の海外安全マニュアルは、基本的にはテロや戦争を想定している。もちろん特別な情報網があるわけではない。テレビや新聞、インターネット、メール(配信サービス)などから得られる情報を用いて各地域の状況を把握。情勢を予測してリスクを評価し、事が起きれば出張や帰国の可否を判断する。
奥山氏が毎日見ている情報を下記に記載したが、このうち「GO!NAVY」というのは米海軍の情報を発信するインターネットサイトだ。
2013年9月、シリア政府が化学兵器を使用したとして米仏に空爆の動きがあった際、奥山氏は「GO!NAVY」からニミッツ級空母の動きを確認。アラビア海から紅海を航行していることに不穏なにおいを感じ、中東の出張者に国際携帯電話の常時携帯や1日1回の安否確認連絡などの注意を促した。結局空爆は回避されたが「万が一への備えと出張可否の判断根拠の一つにはなる」と話す。
社員の出張状況は、申請時のデータを経理システムから毎日ダウンロード。エクセル形式で保存して地域別に並べ替える。これにより誰が、どこに、いつまで行っているかを一覧でつかむことが可能。そこに各地域の治安情報を重ねていくのが、奥山氏の日課だ。
年頭から波乱の幕開けだった
そもそも今年は、年頭から波乱の幕開けだったという。1月3日に米軍によるイランのソレイマニ司令官殺害、1月8日にイランによるイラクの米軍駐留基地へのミサイル攻撃。その後、米連邦航空局が米民間航空機のイラク、イラン、ペルシャ湾、オマーン湾上空の運航禁止を発効するに至り、クウェートにいた出張者に退避を指示した。
「飛行機が飛ばず出国できなくなる」という事態を危惧しての措置だが、直後にトランプ大統領が声明を出して全面衝突が回避されたため、17日にいったん出した指示を解除した。「出張の禁止や退避は経営上重要な判断なので、もちろん役員に状況を説明して決定する。それでも、どう転ぶかわからない状況は多々あります。判断の難しさを日々感じます」
その延長線上で、今回の新型コロナウイルス感染への対応だ。日本や中国だけでなく、アメリカなど他国の情報も注意深く見ているのは、場数を踏んだエキスパートゆえ。2 月25 日には韓国全土を対象に出張を禁止(同時点で外務省は大邱市と慶尚北道の一部地域に限定して渡航中止勧告)するとともに、イタリア北部とイランの出張に自粛を要請した。同時に、これらの地域から2 月21 日以降に帰国した社員に対し自宅待機を含む2 週間の経過観察(検温・体調の報告)を指示している。
とにかく情勢変化が早い
指示は1週間ごとに見直しているものの、いまのところ解除できそうな気配はない。「中国に関しては、上海や香港が5月過ぎまで日本人学校を閉じるとしているので、当面は渡航禁止を継続。あとは、延期された全人代(全国人民代表大会)がいつになるのかなどに注意しています」
今回は「とにかく情勢の変化が早い」と奥山氏。前述したメディアからさまざまなニュースを見て、情報収集に努めているのが現状だという。「独自の基準で判断していくしかない。そのためには情報が必要です。政府や行政の発表を待ってはいられない」と話す。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/29287
※5月12日の危機管理塾は終了いたしました。
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