2020/04/28
葛西優香の23区防災ぶらり散歩
住民の意識は高まっている
下川さんは「予想以上に多くの住民が避難された」と振り返ります。台風19号の際、避難勧告を区内全域に発令すると、多くの区民が避難しました。
下川さんによると、以前に勧告を出したときは、3~4カ所の避難所を開設し、実際に避難した人はそれぞれ10~20人。これに対し昨年は予想外に多くの人が避難したため、避難所が混乱してしまいました。
区民が正しい行動をとったにも関わらず、混乱が起きてしまうのは問題です。会田さんと下川さんは現状を真摯に受け止め「早急に解決策を練らなければならない」と考えました。
「避難したのは比較的若い方が多く、高齢者の方ほど避難されていませんでした」と下川さん。この原因は情報源にあるといいます。SNSなどで情報を取り入れる若い世代は、他地域の情報も取得し、避難行動を積極的にとったのですが、防災無線の音が届かなかったお年寄りの方は家にとどまってしまったのです。
情報の問題に関しては、現在「情報発信部会」が検討しています。防災無線の聞き返しができる電話回線の回線数を増やしたり、SNSの活用を強化したりといった対応が検討されていますが、一番はご近所同士の「お声がけ」ではないでしょうか。
隣近所の声がけが重要
地域の声がけを促進するために必要となるコミュニティタイムラインを作成する部会も立ち上がっています。
コミュニティタイムラインは「地域の協議会運営」「地域特性の分析」「地域課題の抽出」「避難先の検討」など、水害が発生するまでに時系列で何をすべきかをまとめたもの。区内では、長門南部町会ですでに整備が行われています(次回、インタビュー内容を掲載予定)。
東京都ではマイ・タイムラインの作成が促進されていますが、地域全体で計画を立てると、自分たちだけで乗り越えるべきなのか、地域で助け合えることなのか、整理ができそうです。
参考:東京都防災ホームページ
具体的な計画を立てて地域内の連携が高まることで「お声がけ」の体制も整っていきそうですね。
体制整備からの実践
計画を立ててから実践に移すことができるかどうかが、防災の難しいところです。「職員一人一人に、自分たちが動かないといけないということを伝えたい」と、会田さんは力強く語ります。自身も「誰かがやってくれる」と思っていたからこそ、このギャップを埋める必要性を痛感しているのです。
課題が見えてからの素早い対策立案で、体制が整ってきた足立区。住民の意識向上もはっきりと見えるなか、フェーズは計画を「伝えていく」ことに移ってきました。今後は「実行する人が理解し、身体に染み付くまで訓練をする」「訓練をする際、実践をイメージする」というところがポイントとなりそうです。難しいですが、繰り返しあるのみです。
- keyword
- 23区防災ぶらり散歩
- 23区
- 足立区
- 台風19号
- 避難所
葛西優香の23区防災ぶらり散歩の他の記事
- 第22回【特別編】再考 コロナ禍における避難
- 第21回【足立区・続編】「地域のために」できること
- 第20回【足立区】携わってわかる「自分ごと」の大切さ
- 第19回【千代田区・続編】企業の防災活動
- 第18回【千代田区】(下)「天下の千代田区」が乳幼児向け防災訓練に力を入れる理由
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方