2017/05/26
「つながる」ことは「備える」こと
さらに中越地震被災者へのヒアリングの経験から、避難先には恐らく人数分の食器はないこと、調理を行う場所も確保しにくいことを想像していましたので、野菜は事前に切り刻んで現地で水を注げば調理できる状態で持っていくことが望ましいと分かっていました。
そこで、地元団体の「暮らしの会」のメンバーに声をかけ「富岡救援隊」の想いを伝えました。暮らしの会の皆さんは私たちの想いを理解して申し出を快く引き受けてくれ、地区センターの調理室をお借りして食材を切り刻んでもらいました。早朝より地域を駆け回り、作業を進めてきましたが、気付けばもうとっぷりと日が暮れていました。甚大な被害が出ている箇所もあるかもしれない中での夜間走行は危険と判断し、翌朝に出発することにしました。

私たちが地域を駆け回り、1000食分の食料を準備している間に事態はもっと深刻になっていました。3月12日、15時36分、福島第一原発1号機建屋の水素爆発。テレビ画面に映し出された灰色の煙をあげて建屋が吹き飛ぶ姿を見て誰もが、これは現実なのか、とその目を疑ったことと思います。
しかし、その当時、原発や放射能に対して知識のある人はそんなに多くなかったと思います。私たちもその一人でした。ですので、作業をしながらもそんな報があると耳には入っていましたが、困っている仲間を支えに行かなければ!という想いだけが私たちを強力に突き動かしていました。
明日の出発に際し、杉戸町長の古谷松雄町長に電話を掛けました。私たちが「富岡救援隊」を結成し、1000食分の食料を現地へ届けるために動いているということ。しかしICが閉鎖され、一般車両では通行ができないということ。を伝えました。古谷町長はすぐに事態を理解してくれ、明日の朝役場に寄って欲しいと電話を切りました。
翌日、朝一番で杉戸町役場に立ち寄りました。そして古谷町長から「こっちも動いているから、みんなを頼むよ」という言葉を託され、通行許可証というものはないものの、自身の名刺に公印を押したものを受け取りました。
杉戸町を出発したのは午前8時。
杉戸町から福島へ向かうには東北自動車道で北上するのが最短ルートです。間近のICへ向かいましたが、閉鎖されていました。私たちの事情を説明しましたが、係員は取り合ってはくれませんでした。東北自動車道は全面通行止めだったのです。一般道で向かうか?とも考えたのですが、一般道の状況は情報錯綜が著しく、道路情報は全く分からずこれでは現地へ向かうことはできません。そんな時、ICの係員が一言「支援車両であれば通行できるかもしれませんが…」そうぽつりと言いました。「そうか!」それを聞いて私たちは通行許可を管轄している警察署があることを聞き、そこへと向かいました。
未曾有の事態にどの機関も混乱を極めていました。その警察署も同様でした。そんな中でも私たちは自分たちの想いを説明し、町長が託してくれた名刺を見せ、を渡し、通行許可を出してくれるよう懇願しました。どれくらい時間が経ったでしょうか、長い間待たされました。署内でも情報が錯綜している中で判断に苦慮したことと思います。それでも私たちの想いと行政長の名刺の意味を理解してくれ、ようやく東北自動車道に乗ることができました。すでに正午過ぎ。出発から4時間も経過していました。
(つづく)
(了)
「つながる」ことは「備える」ことの他の記事
- カッパ汁届けに「富岡救援隊」を結成
- 有事の際に助け合う仲間との広域共助
- 杉戸町の人々の第二の故郷だった富岡町
- 「誰にとっても心地よい社会」を目指して
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方