2020/05/12
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク
■日系設備販売・メンテ企業G社の事例
日系のG社は、設備販売を行う企業です。設備の設置から保守メンテナンスを行う部隊を持っていました。実働部隊は約15名、1人の部長と、2人の副部長が残りの12名を管理しながら日々の作業を行っていました。
ある日、顧客からの通報で、この部長が総務に報告する作業日報に虚偽があることが発覚しました。調査したところ、この虚偽報告は常習化しており、この部隊へは法外な給与報酬が支払われていたことが分かりました。
そこで総経理は証拠を突きつけ、この部長を解雇する旨を本人に伝えたところ、本人は以下のように総経理を脅したのです。
「俺を辞めさせたら、部下は皆俺を慕っているから、すべてのメンバーがこの会社を去ることになるよ。そうなると顧客へのサービスもできなくなるけど、それでいいんだな?」と。
しかし総経理はこの脅しに怯みませんでした。なぜなら、たとえそうであったとしても、この状況を継続することの方が経営への悪影響が大きいと判断したためです。その場で、総経理は彼に解雇を突きつけたのです。
幸い弁護士のアドバイスもあり、彼の悪事に対する証拠を確保していたため裁判に至ることはありませんでした。
■社員は本当に権限を持つリーダー(領導)しか見ない
果たして、部長の解雇後、この部署はどうなったでしょうか?
次の日、不安に駆られながら恐る恐る会社に出勤した総経理が目にしたのは、予想を覆す結果でした。なんと、解雇された部長以外のすべての社員たちが何事もなかったかのように普通に出勤していたのです。これこそまさしく「中国労務問題あるある」なのです。
実は、中国人は一般的に、横のつながりよりも縦のつながりを重視します。今回の事例でポイントを説明すると、要するに「給与を払ってくれる人は誰なのか?」を社員たちはよくよく分かっていたということです。
いくら辞めさせられた部長が信頼できる人であったとしても、その彼が給与を補償してくれるわけではありません。もし自分が彼とともに企業を去ったとしたら、その瞬間に給与はなくなってしまう。そんな甘い人間関係などには誰も期待しないことは明白だったのです。
このことを通し、当の総経理は、中国の事情の一端を知ったと告白しています。中国では、誰がトップであり、最も権限を持っているかが最大の関心事であり、その人物に対し自分がどのように対応すべきかを考える社会だということを悟ったというのです。
日本の民主主義に慣れ親しんだ皆様からは理解できない部分もあると思いますが、中華人民共和国建国以来、常に中国の人民は国家の領導である中国共産党の総書記が誰なのか、何を考えているのか、どういう指導をするのかを見てきました。巷でよく言われる「上に政策あれば、下に対策あり」とはこういう意味なのです。
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