2017/07/18
講演録

「たびレジ」誕生のきっかけ
ちょうど20年前ペルーの大使公邸占拠事件,ここから私が在外邦人保護に携わるようになりました。2013年のアルジェリアのプラント人質事件や2016年ダッカ襲撃テロ事件では、政府専用機に乗って現場に駆けつけ、現場で体制を組んで対応しています。
アルジェリア事件を契機として在外邦人への安全対策は大きく動きました。3カ月以上の滞在者で在留届を出している人に対しては情報を伝達できますが、3カ月未満の旅行者や短期出張者については連絡先がわかりません。これをなんとかしなければいけないと考え「たびレジ」を導入しています。
2016年のダッカの教訓を踏まえ,中堅・中小企業の安全確保も急務となりました。そこで、セミナーにも力を入れています。領事局に対する講演依頼は、3年前で年間約15件、2年前は30件ぐらいだったのが、昨年度は100件を超えました。やはり危機管理に対する関心は本当に年々高くなってきていると感じます。
治安情勢をエリア別に見てみましょう。外務省の危険情報を見るとわかりますが、欧州は基本的に安全だと考えています。ただ時折テロが発生していますので、ある程度注意しなければいけません。2016年はニースでトラックを利用したテロもありました。テロの襲撃に巻き込まれてしまうと身を守ることは困難です。リスクをどれだけ下げることができるかが重要になります。
情報収集や発信も大きなテーマです。私たち外務省が得た情報をどう対外発信しているのか。それは外務省の危険情報を見ていただくことが一番です。例えば、欧州は基本的に安全な地域とうたっていますが、フランスではテロに対し「特別な警戒が必要です」、ベルギーには「テロに警戒してください」とあります。フランスの方が脅威度が高いのですが、両者のニュアンスの若干の違いを読み取っていただきたいのです。
東南アジアでもテロが発生しています。特にテロの脅威を感じるのはフィリピンです。危険情報に「事件が発生したダバオを含め南部はもとより、首都マニラを含む全土においてテロの発生に注意する必要があります」とあります。フィリピンには欧米人に人気のリゾート地もあります。ここも気をつけなければならないところで,日本人が誘拐されかけて難を逃れているケースは実はあるのです。誘拐になったら大きく報道されますが、未遂で終わった場合はあまり報道されません。危険情報では具体的な地名を記載して注意喚起していますので是非参考にしてください。
外務省海外安全ホームページの見方について触れましょう。トップページには、中央に世界地図があります。関心がある国をクリックするとまず危険情報が出ます。4つのレベルで地域ごとに安全対策の目安が表示され、自分の関心のある地域の治安情勢がどうなっているのかがわかります。
また、その国の安全に関する基礎データも非常に参考になります。例えば,インドネシアです。左手は不浄とされていますので使ってはいけない、頭は精霊が宿る場所として神聖化されているので、特に子どもの頭をなでるとトラブルの原因につながりかねない、そういったことが書いてあります。
ほとんどの在外公館では「安全の手引き」を作成しています。是非入手してほしいと思います。テロ対策、誘拐、交通事故、自然災害、旅行に対する注意事項等,詳細に掲載されていますので、参考にしていただきたいと思います。
- keyword
- 外務省
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方