ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
消防職員の発がん予防について
除染は日常的な火災現場でも行おう!
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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意外と知られていないのが、世界の消防士のがん発生率は63%と非常に高いことだ。
発がんリスクの高い有毒なすす等を発生する塗料や素材が燃焼する火災現場で、現場活動中は空気呼吸器で有毒化学物質や生物学的病原体を直接吸わなくても、防火衣、ヘルメット、空気呼吸器、ホースや筒先、鳶口、ロープなどにも発がん物質と疑われるものが付着している場合がある。
そして現場活動終了後、帰署中の車内や帰署後の片付けの際に個人装備等の保管時に間接的に除染されていない有毒なすすを吸ってしまったり、経皮吸収していることでがんの発生率が高まると、アメリカの消防士のがん予防を研究するグループが発見し、具体的にどのように個人装備や資機材に付着した発がん物質を除染するべきかを発表した。
下記のビデオは、活動終了後、できるだけ早い段階で行う初期除染の例であるが、この他にも多くの初期除染方法がある。
(出典:「Firefighter Decontamination」/Youtube)
上のビデオにある滝型ヘッドシャワーは、機器開発で放水口に取り付けるようにできると比較的安価で全車両に積載できるようになると思う。
(出典:「Decon Shower」/Youtube)
通常、「除染」というと放射能物質やサリンなどの殺傷能力が非常に強い有毒ガス等に対しての物質の除去手段として、高圧シャワーなどを浴びたりするが、このNFPA(全米防火協会)1851が標準化した除染は、消防士の健康とガンから守るための除染である。
下記には特殊な洗濯機を使って、PPE(個人用保護具)を洗浄するやり方が記されている。
■PPE Cleaning Validation
http://www.nfpa.org/ppecleaning
■NFPA 1851
Standard on Selection, Care, and Maintenance of Protective Ensembles for Structural Fire Fighting and Proximity Fire Fighting
http://www.nfpa.org/codes-and-standards/all-codes-and-standards/list-of-codes-and-standards/detail?code=1851
各個人装備や資機材によっても除染内容は異なり、また、洗剤、温度、つけ置き時間など、毒性物質の特性に応じた中和方法や除染の仕方をとても詳しく説明している。
(出典:「How Clean is Clean The Validation of Fire Fighter PPE Cleaning webinar」/Youtube)
下記のビデオでは個人装備のほつれや破けやすい箇所の点検・発見方法、ヘルメットのひびや破損箇所の見分け方、各個人装備の安全使用期間の管理など、消防士の体を守るために必要な詳細が紹介されている。
(出典:「Advanced Inspection and Cleaning of Fire Fighter Protective Gloves」/Youtube)
日本国内では、約2万種類くらいの危険有害性物質やガス、毒物や劇物などが存在し、製造工場や印刷所などの火災現場活動、危険有害物質を搬送中のトラック事故などの活動は下記のシンボルマークに注意し、特にばく露しないうよう注意すると共に活動後の入念な除染が必要だと思う。
■安全データシートの簡単な見方・解説(印刷インキ工業連合会)
(4ページ目の危険有害物質情報シンボルマークを覚えておこう!)
http://www.ink-jpima.org/pdf/201304.pdf
■毒性劇物とGHSラベル(厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室)
http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/ghs/pamp.pdf
また、危険有害物質に限らず、生物学的病原体も生物テロ以外でもばく露する可能性もあるため、常に除染を行う習慣を隊で付けておくことをおすすめする。
■生物・化学戦(BC)の対処法(化学)(緊急災害医療支援学/自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之)
http://www.group-midori.co.jp/logistic/bc/
以下は関連資料。
■第5編 化学災害又は生物災害発生時の除染活動(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h24/gijutsu_koudoka/03kyujo/shiryo6-1.pdf
いかがでしたか?
消防業務は、一般企業では考えられないほど幅広い様々なリスクが内/外在しますが、特に体や心の健康などのソフト面には目を向けない事が多いと言われています。
最近になって、やっと消防職員向けの惨事ストレスワークショップや健康管理セミナーなどが行われるようになってきましたが、まだまだ、消防職員の心身の健康を予防するための組織的な取り組みが足りないような気がいたします。
よく消防士は退職後数年で亡くなる方が多いといわれていますが、今回の消防士の発がん予防プログラムを具体的に行うことで、退職後のセカンドライフを楽しんだり、在職中も健康で思いきり消防活動に励むことができる人生の予防にもなると思います。また、ご家族との楽しい時間も長く過ごせた方がいいですよね。
一般的な有毒なすすやガス、危険有毒物質や生物学的病原体は目に見えないために予防が難しいと思いますが、毎回の火災現場活動後は、水圧を生かした「初期除染」を習慣づけてお互いの健康を守りましょう。
Be safe out there!
それでは、また。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
info@irescue.jp
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