津波体験者の<生の声>を残す~東日本大震災の現場から~
石ノ森萬画館、大森盛太郎氏に聞く

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/07/31
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
東日本大震災の大惨事からから約3カ月後の2011年初夏、私は仙台湾に向かって開けた宮城県石巻市を一望できる日和山(ひよりやま)に登った。同山は旧北上川の西岸(右岸)にある。標高56.4mで、市内の中央部にある丘のような低山である。江戸時代に書かれた地誌によれば、山の名は石巻から商船が出航する前に、この山に登って天候を観察したことから付けられたという。元禄2年(1689)年5月10日には、俳聖松尾芭蕉が訪れ、同行の河合曽良が眺望を日記に記した。山上に二人の像が建てられている。
日和山から見下ろした市内の惨憺たるありさまは今も忘れない。足下の市街地は、津波の襲来と旧北上川の氾濫で泥海と化した無残な姿を残していた。地震後の地盤沈下が追い打ちをかけ海水が市街地の奥にまで侵入してきていた。
人影のまばらな旧北上川河口部の中洲(中瀬地区)に真っ白い大型ドームが取り残されたように光っていた。石ノ森萬画館である。同館は宮城県登米市出身の人気漫画家石ノ森章太郎 (いしのもり しょうたろう、1938~1998)氏の発案で建てられた。シャッター街のさびれた石巻市街地に、にぎわいを取り戻し若者向けの情報を発信することを目的に、2001年7月に開館した。同館の外観は「宇宙船」をイメージして作られた。オープン直後から海辺の観光スポットとして人気を博した。
<町おこし><活性化>のシンボル的存在だった同館は無残にも津波に繰り返し直撃され泥海に孤立した。私は日和山から同館に向かい、業務課長大森盛太郎氏に面会し被災体験を聴かせていただいた。被災者の「衝撃(ショック)」を風化させないためにも、ここから以降は氏の体験談を記しておきたい。
<地震発生時から津波襲来まで>
3月11日午後3時からの会議に出席するために、石巻市役所に向かっている車中(駅前の魚民付近)で地震が発生した。大地震とすぐ分かる地鳴りと強烈な揺れにハンドルを取られそうになり、車が踊るように飛び跳ねる。思わずその場に急停止するが、目の前のビルがうねる様に揺さぶられ、市役所屋上付近では、ガラガラと物が崩れ落ちる音が聞こえたために、身の危険を感じて地震で道路が揺れる中、対向車線を逆走しながら車を安全な場所(駅前ひろば付近)へ移動する。
ほどなくして地震は収まったが、石ノ森萬画館の管理人の一人として、すぐさま来場者とスタッフの安全を確保しなければと思い、萬画館へと車を引き返した。途中、店舗の壁やショーウインドウが破損した商店街を通り、停電で信号機が作動せず、路上に停車している車も多く、思うように移動出来なかったが、発生5分後になんとか萬画館へ戻ることが出来た。
当時の萬画館来場者は約30人程度。有事の際の来場者緊急誘導については萬画館スタッフも心得ていたので、自分が漫画館へ到着した時にはすでに来場者の避難も終え、館内の施錠をしたうえで、臨時閉館の措置を取り終えていた。
テレビもつかず、ラジオもなく全く状況はつかめなかったが、市の防災無線で早い段階から大津波警報発令のアナウンスがされていたので、その情報をもとに館内スタッフへ道が混む前に急いで中瀬付近から離れて各自帰宅するように指示を出し、自分だけが館内に残る。
前年のチリ地震津波の際には、中瀬付近では50cm程の潮位の変化しかなかったので、大津波警報が発令されているのは分かっていたが、予想される津波の規模や到着時刻などについても全くわからなかった。今回も津波が来たとしても前年の倍(1m)ぐらいだろうと思っていたのだが、念のため自家用車を中瀬から対岸側の駐車場に移動させたうえで、地震の被害状況をまとめるために、館内と萬画館周辺の報告写真を撮影して回る。
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