2017/08/21
防災・危機管理ニュース
リオデジャネイロ2016オリンピックの閉会式で引き継いだ大会旗(写真①)は、東京2020大会開幕のちょうど3年前となる7月24日から、全国を巡るフラッグツアーに入りました。リオで、日本選手団が、史上最多となる41個のメダルを獲得した、その熱気をぜひとも3年後の東京に引き継ぎたいものです。
「平時における世界最大のイベント」と言われるオリンピックですが、東京では33競技339種目ということで、種目数で言えば史上最大の大会ともなります。チケットを買っての観戦以外に、ライブサイト等もありますので、過去のデータ等から総合的にみて、東京2020大会に際しての人出総数は2千万人に達する可能性もあるとみております。
それだけのメガイベントを安全に円滑に動かしていくために、何が「リスク」になるでしょうか。そして、それらのリスクをどうやって「マネジメント」していけばよいでしょうか。
私が担当しているのは、セキュリティです。オリンピックの歴史を見れば、大会が開催できない、という文字通り「最悪」の事態が3度ありました。いずれも2度の世界大戦の関連です。オリンピック大会にとっての「リスク」というのは、「戦争からコソ泥まで」と言われますが、現在の情勢からは、なんと言ってもまずはテロです。ミュンヘン(1972年)やアトランタ(1996年)における惨劇は、決して忘れてはなりません。
次に、東京開催の宿命として、地震や風水害といった自然災害も当然でしょう。また、東京の真夏の日差しと猛暑から、屋外で立ったままになる来場者やワークフォース等を守らねばなりません。さらに、近年の諸大会をみれば、サイバー空間でのインシデントが現実空間の大会運営に影響する事態を想定しておく必要もあるでしょう。
「ちょっと意外な?」リスクもあります。日本人はオリンピックが大好きと言われます。それが何のリスクか、と思われるかもしれませんが、1964年の東京オリンピックでは、聖火リレーやマラソンの沿道に押し寄せる人波たるや、凄まじいものがあり、聖火ランナーが群衆に囲まれて動けなくなったり、雑踏の中でけがをする人が出たり、ということが実際に起きました。昨年10月の銀座・中央通り等でのメダリストパレードの人出(写真②)をみると、そういったリスクはやはり軽視できないと思います。
そして、それだけの人出が、東京都心を縦横無尽に動き回ります。リオデジャネイロでは、東京ドーム25個分の大きさを誇る「オリンピック・パーク」(写真③)等の郊外施設に大半の競技が集中しており、都心の人や車の流れとは切り離されていました。過去の大会では、そちらの方が普通で、東京は、首都機能と大会運営の共存という難しい課題に挑むことになります。
それでは、東京は「これらのリスクにどうやって対処するか」ということになります。事態の影響度、発生蓋然性を勘案し、許容できないリスクをどう転嫁させるか、低減させるべきリスクをどう低減し、受容可能なレベルに落とし込んでいくか、といった分析は、リスク管理の一般原則と同じだと思います。
2020年の東京で、その他の競技会場で、皆さんがまず目にするであろうものは、競技会場等がフェンスで囲まれた状態(写真④)、来場客に対してゲート式金属探知機やX線検査装置を用いたセキュリティ・チェック(写真⑤)、そしてそのために全体で1万人を大きく超える警備要員が動き回っている姿、大会関係者達がことごとく「アクレディテーション・カード」と呼ばれる写真付き身分証明書を首から提げている姿等々でしょう。
そういったセキュリティ措置の数々が大会期間中に展開されていくことになります。スポーツイベントとしては他では見られないレベルのセキュリティ措置となります。
資金面で非常に厳しい状態に置かれたリオデジャネイロにおいても、ここで列挙したような様々なセキュリティ措置について、1つたりとも「おカネがないのでナシですませます」ということはありませんでした。イベントとしての装飾的要素であれば、「予算の範囲でやりましょう」という考え方もあり得ましょう。しかし、大会セキュリティというものは、そんな「リソースベース」での割り切りが許されるものではなく、「リスクをどこまで低減させるべきか」つまり純粋に「リスクベース」で考えるべきものだ、ということです。
ところで、「レガシー(遺産)」という言葉がよく使われるようになりました。オリンピック・パラリンピック大会開催に際しては、社会インフラの整備が進められ、様々な施設の新設も行われることが一般的です。かつての東京1964大会に際して登場した「新幹線」、「モノレール」、「首都高速道路」、「日本武道館」等々は今も我々にとってなくてはならない存在です。
また、世界最新技術の「ショーケース」と呼ばれるほど、新たなテクノロジーが世界の脚光を浴び、そして普及していくことも多々あります。例えば、ロサンゼルス1984大会で登場したのが「電子メール」でした。東京2020大会においても、様々な歩みの後に何らかの「レガシー」が残るよう、創意工夫を重ねていきたいと思います。
(了)
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