2017/08/28
安心、それが最大の敵だ
建物の重さで液状化防止 費用を3割減
同技術センターは、直接基礎の建物の自重で地盤を押さえ付けて液状化を防ぐ構法を開発した。建物自体の重さを使うので、特別な費用が掛からない。地盤改良する範囲が必要最小限に抑えられ、液状化対策の工費と工期を従来よりもそれぞれ3割ほど減らせる。「大成式液状化対策構法」として2013年、ベターリビング社から一般評定を取得した。同社によると「液状化の抑止効果そのものに対する評定取得は、業界で恐らく初めて」という。
液状化は、緩い砂地盤で地下水位が高い場合に起こりやすい。地震などの震動が繰り返し加わることで地下水圧が上昇するとともに、砂粒同士のかみ合わせが外れて、地盤が支持力を失う。液状化した地盤よりも比重の軽い下水管のマンホールなどは浮き上がり、重い建物などは沈下したり傾いたりする。
こうした地盤を直接基礎の建物で上から押さえ付けると、建物直下では砂粒同士に加わる圧縮力が大きくなる。地震で揺すられても砂粒同士のかみ合わせが外れにくくなり、液状化が起こりにくい。

だが建物の重量が加わらない周囲の地盤は液状化する。その結果、建物直下の地盤が周囲にはらみ出し、建物が大きく沈下する恐れがあった。そこで同センターは、従来から液状化対策として多く使われている格子状地盤改良と組み合わせた。
緩衝材の上に建物を載せる
まず、セメント系材料で剛性の高い格子状の壁を地中に築く。格子壁は、地震時の地盤のせん断変形と側方移動を防ぐ。次に、格子壁の頂部にEPSと呼ぶ発泡スチロールなどの緩衝材を敷いた後、直接基礎の建物を施工する。
従来の格子状地盤改良は、硬い格子壁が建物の自重を支えることになり、地盤にはほとんど力が加わらなかった。一方、新構法では緩衝材を敷くことで建物を数センチメートルほど沈み込ませて、荷重が地盤に加わるようにする。

緩衝材の高さは10~50cmほど。建物の自重などに応じて大きさを変える。地震時に液状化する恐れのある緩い砂地盤でも、平常時は建物を支えられるだけの十分な支持力を持つ。格子壁を3割ほど減らしても、従来の格子状地盤改良と同じ効果があることを確かめた。同技術センターは、建物の自重や液状化層の厚さなどに応じて、格子壁の間隔や剛性を算定したり、液状化の起こりにくさを評価したりする設計手法を確立した。臨海部にある工場や倉庫、商業施設などを中心に導入を勧めていく考えだ。まさに「地図に残る仕事」である。
参考文献:大成建設技術センターの公表資料・研究論文、日本経済新聞・日経産業新聞・日経アーキテクチュアなどの関連記事(写真・映像などをご提供くださった大成建設技術センターに感謝します)。
(つづく)
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