Interview ニュートン・コンサルティング株式会社 内海良氏

自らの組織だけでは災害対応には限界があり、取引先や業界団体の連携が不可欠になるということは、東日本大震災から我々が得た教訓のひとつだ。震災から3年が経った今、各企業や組織が早期に事業を再開させるだけでなく、平時からの協力体制により、事業競争力を高めるという新たな取り組みが始まっている。昨年6月からスタートした経済産業省の「事業継続等の新たなマネジメントシステム規格とその活用等による事業競争力強化モデル事業」は、地域や業界内の組織、サンプライチェーンなどが連携してBCPを構築し、事業競争力、ブランド力の強化につなげようというもの。連携を作り上げるポイントはどこにあるのか。同事業の運営事務局でニュートン・コンサルティング株式会社シニアコンサルタントの内海良氏にBCPの連携の枠組みや連携を強化するためのポイントについて聞いた。

Q. BCP連携と一言でいっても、サプライチェーンのような取引先企業との連携だけではなく、業界内の企業が助け合うなどさまざまなタイプが考えられると思います。企業形態や目的の違いに応じてどのように分類できるでしょうか? 
連携のタイプは大きく5つに分けられると考えています。運命共同型とサプライチェーン型、業界型、行政主導型、そして都市街区型です。この違いによって考慮すべき点が異なってきます。

運命共同型は工場団地のような特定の場所に複数社が集中しているようなケースです。湾岸部を考えるとイメージしやすいかもしれませんが、石油化学コンビナートでは、配管を張り巡らせ気体などの原料を効率的にやりとりしているため、地域インフラの結びつきが強い。配管の1カ所でもトラブルが起きると玉突き事故のように多くの企業に被害が出てしまいますし、橋や道路などが少ないエリアではそれらが被災すると事業継続に影響が及ぶため、地域インフラの確保に協力して取り組む必要があります。

サプライチェーン型は製品、商品を中心に原料の調達からユーザーへの配送に携わる各企業が連携するものです。原材料や部品の供給停止、受発注のシステムが途絶えたとき、輸送のための燃料やルートが確保できないときにどのように対応するか、いつまでに復旧できるのか、協力して取り組まなくてはいけません。 

業界型は同業の企業が助け合うタイプです。被災したら、普段は競合している他社に製品の製造や納品を代わってもらう。例えばLPガスの事業者は、災害時には避難所にLPガスを届ける協定を自治体と結んでいます。しかし、自らが被災する可能性もあるため、有事の際にはしっかりと協力できる代替システムをつくっています。また、岡山県の金属加工会社は金型を融通し、遠隔地にある他社に一時的に振り替えられるよう、広域連携の仕組みを構築しています。 

行政主導型は自治体と地域の企業や団体など官民一体で協力して、地域の安全を守り、活力を失わないために連携するものです。ひたちなか市では、新型インフルエンザが流行しても地域全体への影響をできるだけ低下させるために、医師会や薬剤師会、保健所などと連携し医療サービスを確実に提供できるように取り組んでいます。 

都市街区型では同じ地域内の住民と企業、自治体が協力し地域の安全性を高め、より魅力的な街にするために連携するものです。情報提供や水・食料などの備蓄、避難場所の提供や帰宅困難者の受け入れなどを想定して準備し、協力して災害に対処します。

Q.これらの連携を達成するためには、どのような手順でBCPを構築すればよいのでしょうか? 


基本的には個々の組織でBCPを構築するのと同じで、経済産業省の事業では、国際規格であるISO22301を使いました。ISO22301の規格自体は連携を想定したものではありませんが、非常によくできていると感じます。 

具体的には、まず参加する組織の利害関係者のニーズを洗い出します。ニーズの方向性を調整し、構築時、平時、緊急時のグループ体制をきちんと確立します。連携する参加者が一同に会し、目的や目標などを共有するキックオフの場を設け基本方針を策定します。 

その上で、事業インパクト分析(BIA)を行い、リスクと被害想定を洗い出し、共通認識を持ってリスクアセスメント(RA)を行います。そして、事業継続戦略を策定します。最後に文章化して演習・訓練を行い、年間計画を立てマネジメントレビューをする。可能な限りワークショップのように机を並べて共同で行うのが理想的です。 

ただし、単一組織の利害当事者のニーズだけでも多岐にわたるところを、複数組織となるとニーズがさらに膨大になり、組織間で意見が一致しない点も数多く出てきます。この場合、繰り返し食い違っている部分を解消し、方向性をそろえるための調整が必要になります。