2014/03/25
誌面情報 vol42
災害が起こると原材料や部品の調達が困難になり製品の生産が停止する。サプライチェーンの寸断は分業化が進んだ今、どの企業も抱える問題だ。リコーグループは国内外に広がったサプライヤーとBCP連携を強化し、生産を早期再開できる体制づくりに挑んでいる。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/670m/img_6292aa1133442f11265daceea0c6d936235741.png)
「東日本大震災では通常通りのオーダーに完全に対応できるまでに7カ月かかりました。原材料や部品の調達から製品の輸送までサプライチェーン全体のBCPが求められています」と語るのはリコー内部統制室・TRM推進グループの荻原毅氏だ。リコーは東日本大震災で現地の生産ラインが被災した。旧東北リコー(宮城県柴田町、現リコーインダストリー東北事業所)は天井が落下し、固定されていた大型の貯水タンクが飛び上がり大きく移動するなど、施設も甚大な被害を受けた。
BCPに基づき、現地ではすぐに復旧に動いた。設備の代替など現場がアイデアを出し合い、臨機応変に対応したおかげで3月28日には主要なラインの再開にこぎつけた。4月7日の震度5強の余震で再度大きく被災したが、それでも全てのラインが4月26日には復旧した。ところが、その後も取引先から一部の主要部品が思うように入らず生産遅延が発生し、被災前の操業レベルに戻ったのは同年10月中旬。震災からはすでに7カ月が過ぎていた。この経験を踏まえ、リコーではサプライヤーも巻き込んだサプライチェーン全体としてのBCPレベル向上に向けて踏み出した。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/9/f/670m/img_9f4841bc27b550b71e6c95df1aef4f0f46092.png)
被災地でも8日後に消耗品提供
リコーが目指すBCPは、大規模災害が発生してから8日後には被災地でもトナーなどの消耗品と保守サービスを平時に近い状態で提供できるようにすること。もちろん、自治体や病院などの緊急対応が必要な組織には即日にも対応できるようにする。一方、非被災地については発災3日後までに消耗品と保守サービスを提供することを目指している(表1)。非被災地の多くの顧客は通常レベルのビジネスを続けているため、顧客のビジネスを止めないことを優先するという理由だ。消耗品や保守サービスを除く主要製品については、1カ月以内の生産体制の復旧を目指している。
そのため同社では、消耗品生産拠点の二重化、輸送経路や在庫配置の見直しなどに加え、輸出関連業務の一部を海外拠点で可能にするなど貿易事務機能の代替化を実現している。平時の業務効率化やスピードアップを図りながら、事業継続のための施策展開も同時に進めている。ただし、原材料や部品の調達がボトルネックになるため、リコーグループ、サプライチェーン全体を含めたBCPの構築が目標達成には不可欠になる。
誌面情報 vol42の他の記事
- 特集1 個々のBCPでは「限界」がある
- 3.11を契機に連携を強化 小さなBCPを共有
- 全経営資源を被災地に
- 事業競争力が高まる5つのタイプのBCP連携
- 特別寄稿 連携力を評価する訓練手法
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方