情報収集:関係機関、現場から収集 
特長の1つ目である情報収集は、インターネット環境が整っていれば、ID・パスワードによりどんな端末からでも入力ができるようにしたこと。スマートフォンやタブレットから直接画像を送ることも可能だ。 

IDとパスワードは内閣府、市・町、警察、消防、自衛隊のほか、医師会や病院協会、看護協会とも共有し、通常約650名のアカウントが用意されている。緊急時には突発的な利用者の増加も想定し、状況に応じてアカウントを増やすこともできる。 

収集する情報は、消防庁4号様式※1にも対応しており、①本部設置・庁舎周辺の被害状況(入力は県本部、県方面本部、市町本部)、②現場被害報告(入力は市町)③被害即報(入力は市町:消防庁4号様式その1)、④被害総括状況(入力は市町:消防庁4号様式その2)、避難所(入力は避難所責任者)、⑤ライフライン状況(入力はライフライン各社)と、入力者により分類される。これに加え医療機関では、厚生労働省の広域災害救急医療情報システム(EMIS)とも連携させた(詳細は後半「医療情報ネットと連携空きベットの状況なども関係機関で共有」参照)。

※1 消防4号様式…消防組織法に基づき、消防長官が求める消防関係報告のうち、火災・災害に関する即報について定められた様式の1つで、第4号様式は災害即報に対応する。第1号、2号様式は火災等即報、第3号様式は救急救助事故即報。

情報集約・共有:地図情報とも連動 
特長の2つ目である情報共有は、組織が連携するための基盤になる。各現場から「FUJISAN」に入力された情報は、状況モニター画面に一覧表示される。個別案件に対して支援要請や回答もでき、これらの情報もすべて蓄積共有される。
・市町村の全体状況(県内自治体の本部設置状況や各種報告件数)
・被害状況(県内自治体の被害速報、被害総括の前回報告との差分)
・医療救護施設(病院、救護施設の被災状況)

さらに、GISとの連動により、収集した情報が地図上に落とし込まれる。GISではあらかじめ静的データとして、避難所、津波避難ビルなどの避難施設情報のほか、災害拠点病院などの医療関係施設からヘリポートや井戸の場所にいたるまで、約30種類の災害に対応する施設等の情報が入力されており、災害時には同じGIS上に、動的情報として現場の被害報告や開設された避難所のデータがリアルタイムで表示されていく(図3)。30種類の情報は、Web上のチェックボックスで選択して表示することができるので、必要な情報を重ねて表示することも可能だ。県道路通行規制情報提供システムとも連動しており、交通規制がかかっている道路などもGIS上で把握できる(図4)。

情報配信:「公共情報コモンズ」等を通じた外部への情報提供 


特長の3つ目である多様な情報公開では、一般財団法人マルチメディア振興センターが運営している「公共情報コモンズ」(※2)を通じた情報提供と、緊急速報メール、広報資料の公開サイトの設置を柱とする。 

「公共情報コモンズ」への参加により、市町村と合意のとれた避難勧告や避難所の開設情報、対策本部の設置、被害状況などが自動的に報道機関に配信されることになった(図5)。さらに検索ポータルサイトである「Yahoo!Japan」と協定を結び、有事の際には「FUJISAN」から直接情報を配信する仕組みを整えているという。「Google」とも同様の協定を交わしている。そのほか、各携帯会社を通じ緊急速報メールで県民に対し避難勧告・指示などを提供できるようになった。広報資料に関してはインターネットの特設サイトに掲載することができる。 

「システムができるまで、これらの情報は国に報告するためだけに使用していたが、現在は県民に対しても情報公開ができるシステムになった」と静岡県危機管理部危機対策課対策班長の渡辺岳史氏は話す。

システムの流れ 
システム運用の流れは、まず気象警報や地震などの災害が発生した場合、画面などにプッシュ型で通知PCがポップアップされる。災害がある一定の水準に達した場合、県職員には一斉に安否確認・一斉参集指示メールが配信される(図6)。


同時に各現場・関係機関は状況報告(入力)を開始し、情報収集・蓄積→状況把握・対策→支援要請・回答→情報伝達・公開といった操作サイクルを、時間経過ごと繰り返すことになる。これらの情報は関係者間ですべて共有される。 

システムの運用にあたり、市町には、災害発生から30分以内にシステムに被害即報をフォーマットに合わせて入力することを義務付けている。登録されなかった場合、役所自体が深刻なダメージを受けている可能性があるので、県から応援を派遣することも検討する。収集した情報は状況モニター画面で、市町全体状況や被害状況、医療救護施設の情報が一覧で確認できる。 

市町が避難勧告・指示を発令した場合は、システムに登録することで県にも自動的に報告され県内の避難勧告一覧が作成されるほか、各携帯会社から緊急速報メールを通じて住民にも情報を通知することができる。 

県では、今後Jアラートの情報や、気象庁が発表する富士山に関する噴火情報などもこのシステムを通じて配信していきたいという。

外部情報の取り込みをさらに検討 
今後の課題も浮き彫りになっている。道路状況はいまのところ県の交通基盤部のシステムと連動させているため県道の状況までしかGISに反映されていない。将来的には民間で運営するインターネットの通行可能情報や、細かい道路の情報なども取り込んでいきたいという。Twitterなどの情報は、東日本大震災でその有益性は様々なところから報告されているものの、まだその情報の多さを行政側で処理することは難しいとする。将来、Twitterなどからのビッグデータを集約・解析し、社会傾向として把握できるようなツールが開発されれば、情報として導入することも検討していきたいとしている。

※2 公共情報コモンズ…2008年の総務省「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会」による「安心・安全公共コモンズ」構築についての提言が具体化したシステム。従来であれば市民への情報伝達者である新聞やテレビなどの報道機関は、災害時は個別に自治体やライフライン会社などに被害情報を取材して報道にする。やり取りはFAXや電話を中心に行われるため、情報の漏れや数字の間違いなどが発生し、市民への均一で正確な情報提供ができない場面もあった。そのような事態を防ぐため、自治体やライフライン会社が情報をある程度均一のフォーマットで公共情報コモンズに入力し、それを自動的に報道機関などに配信することで、報道の正確性を上げるとともに、取材する側、される側の作業簡略化を図る。4月25日現在で、18の都道府県が運用を開始し、16都道府県が準備・試験中だ。2015年度中には全都道府県の参加を目標にしている。