「災害時情報書き消しボード」で訓練

東京都西多摩郡瑞穂町は5月8日、BCPに基づく「震災直後における被害状況把握訓練」を行った。参集時に確認した被害状況と通過ルートを白地図に記入して情報を共有し、災害対応に生かせるかを検証する目的で42人が参加した。今回の訓練では、元東京都防災担当課長で瑞穂町のBCPアドバイザーを務める齋藤實氏が発案した「災害時情報書き消しボード」を情報共有のツールとして活用。白地図や被害状況集計表などをAゼロ版(1189×841mm)に出力したもので、住友スリーエムの特殊フィルム加工によりホワイトボードのように使用できる。記入はなめらかで訂正と消去もスムーズ。情報の「上書き」を何度でも行えるのが最大のメリットだ。

情報書き消しボードの詳細はこちら→http://www.risktaisaku.com/articles/-/690

瑞穂町は都心から北西約40kmに位置し、北側は埼玉県と接する人口約3万3000人の町。同町が「瑞穂町事業継続計画(BCP)地震編」を策定したのは2013年2月。2012年の素案段階から庁内で研修会を開き、職員の安否確認訓練や災害対策本部設置訓練を行い、訓練で検証した点などを反映させ完成させた。アドバイザーの齋藤氏は「役場に参集できる職員数を平常時の50%と設定した上で、発災から1時間、3時間、6時間後などに参集職員が何人で、何をするかまで詳細に決めている。全職員参加型のBCPで、他の自治体では見られない」と瑞穂町BCPの特長を語る。 



訓練の想定は休日の午後2時にM7.2の多摩直下地震が発生したというもの。瑞穂町の震度は5強と設定した。訓練の概略は、職員の参集ルートを白地図に記入しながら町の被害状況などを情報共有し対策を講ずることだ。

白い隙間は情報の空白地帯
第1部では参集状況表に所属部課と名前、到着時間を記入するとともに、職員が確認した被害状況を緊急性や危険性の高さに応じて色を変え集計表に書き込む。次に役場に来た道のりを地図上にマジックでなぞり、一人ひとりが確認した被災状況も地図上に書き込んでいく。白地図に通過ルートをなぞることで、情報を収集できた場所が明確化される。もし地図上に白い隙間があれば、そこは「情報の空白地帯」となって視覚化される仕組みだ。集計表や地図はすべてフィルム加工されている。 

「訓練を開始します」のかけ声で職員たちが動き出した。参集状況表に名前などを記入し、「狭山神社に避難者あり」「○○倒壊」と次々に集計表に書き込んでいく。同時に白地図上に、職員が通ってきた道を探しながらなぞっていく。徐々に、地図上の瑞穂町役場から四方に黒い線が伸びていった。上下水道の被害は赤で書き込まれた。「家屋倒壊」「避難者あり」と職員が得てきた情報が次々に付箋で貼り付けられていく。こちらも重要度の違いで色を分けている。開始直後は順序よく並びながら記入していたが、次第に危険性の高い情報を把握した職員が順番を飛び越えて先に記入するようになった。中には、怪我をしたことを想定し左腕を三角巾で吊った職員もいた。開始から約10分で参集した職員の記入は終了した。地図上に赤く記された緊急性の高い被害から読み上げ、情報を共有し1部は終了した。

地図を班ごとに色分け 

第2部は参集した職員と災害対策本部で集めた被害情報から各班が必要な情報を拾い上げ、対策を検討し実行に移す訓練。 

職員は「火災、建物被害」「医療機関、負傷者」「道路、上下水道、ライフライン」「避難所」の4班に分かれて対応にあたった。訓練開始とともに各班から数名が1部で記入された地図や被害状況の確認表の前に集まりメモをとる。「○○医院に負傷者があふれている」「○○小学校は15時50分に鎮火」などの声が飛び交う。所属する班に戻ると、各班に配布された別の地図に被災状況などを書き込み、付箋で情報を補っていった。 

こちらの地図の背景色は、対策班ごと青、黄、桃、緑色と異なり、見分けがつきやすくなっている。集める情報を間違い「上下水道はうちの担当じゃない」との声も聞こえてきた。記入ミスや刻々と変化する状況に併せてボードにも変更が加えられた。 

5分後に情報を記入した地図を掲げ状況を説明し、全体で情報の共有を図った。「鎮火したとはいえ火災が発生した学校を避難所にするのか」と齋藤氏からの指摘も飛んだ。さらに5分で緊急対策を立て地図上に記入していった。 訓練を見守った瑞穂町企画部企画課の高橋幹夫係長は「被害状況と場所、避難所の位置とそれぞれの距離感が視覚化され、分かりやすい。避難場所や医療機関をあらかじめ記入しておいた方がいいなど改善点も判明した。火災鎮火や通行止め解除など状況の変化にも対応できる。ホワイトボードのように使えるので非常に有効」と災害時情報書き消しボードの手応えを語った。昨年度の訓練では一般的な紙の白地図を使ったため参集ルートや状況を直接記入できず、被害場所に丸をつけ付箋で対応したという。

齋藤氏は「災害直後に短時間で限られた人員で対応するには、情報を収集し無駄な情報を省く情報トリアージが重要になる。マップで効率的に情報を共有することが大切。最優先事項を判断して対応できるようにならなくてはいけない」と訓練を総括した。

瑞穂町のBCP【地震編】
http://www.town.mizuho.tokyo.jp/housin-keikaku/bousai/bcp/honnpen.pdf

「災害時情報書き消しボード」は、齋藤氏の監修のもと、リスク対策.comと住友スリーエムで商品化中。問い合わせは新建新聞社リスク対策.com編集部(☎︎03-3556-5525)。