2017/11/16
防災・危機管理ニュース

公益財団法人東京都中小企業振興公社が主催する「BCP策定推進フォーラム2017」が10月30日、都内で開催され、企業・団体等のBCP担当者を中心に約300名が参加した。
第1部では、株式会社深松組(宮城県仙台市)代表取締役社長の深松努氏が登壇し、「2011年3月11日金曜日14時46分 東日本大震災〜現場からの証言 復興に向けての課題と提言〜」と題して基調講演を行った。第2部では、東日本大震災、熊本地震を乗り越えた企業や首都直下地震に備えてBCMに取り組んでいる企業を迎えてパネルディスカッションを行った。
第1部で講演した深松組の深松努氏は、東日本大震災発生当時、仙台建設業協会の副会長を務めており、震災発生直後から仙台市各区各課の要請を受けて、被災現場の責任者として緊急対応業務に当たった経験から得た教訓や、東京での大災害時に想定される状況への危機感、災害対策の必要性を訴えた。
深松氏は震災前後からの写真や豊富なエピソードを交えながら、仙台市各地区の被災直後の状況からはじまり、瓦礫撤去、損壊家屋解体、啓開作業、遺体捜索などの緊急対応業務、嵩上げ、宅地移転、住宅再建に至るまでの復興への険しい道のりを詳しく説明。その上で、震災から得られた教訓の一つとして、災害時において公助や物資の供給が期待できない中での「自助・共助」の必要性を指摘した。また、家庭での最低限の備えとして、(1) 家族分の1週間分の食料を確保する、(2) 車の燃料を常に満タンにしておく、(3) 家族との待ち合わせ場所の確認する、の3つを平時から行うべきであることを強調した。
講演の終盤には、東日本大震災以降172回の講演を行ってきたことに触れ、「全国、釧路から沖縄まで、何回も行って同じ話をしているが、毎回、みんな同じ反応をする。6年半も経つとみんな忘れてしまう」と時間の経過に伴う防災意識の低下に警鐘を鳴らしつつ、「皆さんがそれぞれの地区で、それぞれの地域を守れば、この日本は絶対に大丈夫、必ず復興できる」と力強く語った。
第2部では、パネリストとして、北良株式会社(岩手県北上市)代表取締役社長の笠井健氏、株式会社ディスコ(東京都大田区)サポート本部総務部BCM推進チームの猪瀬順平氏、株式会社生出(東京都西多摩郡)代表取締役社長の生出治氏、銀座パートナーズ法律事務所(東京都中央区)弁護士の岡本正氏が登壇し、取組事例紹介とパネルディスカッションを行った。ファシリテーターは新建新聞社取締役・リスク対策.com主筆の中澤幸介氏が務めた。
産業・医療・家庭分野でガス事業を展開する北良の笠井氏は、「災害から学ぶ実践型BCP」と題し、同社のBCP・災害対策の取り組みを語った。東日本大震災では、早い段階から2008年の岩手・宮城内陸地震以来、通常の在庫とは別に備蓄しておいた酸素ボンベを、顧客の安否確認をしながら配って回ることができたことを紹介。
また、県庁、警察、ラジオ局などとの平時の意思疎通によって、迅速な電力供給と事業再開、緊急車両登録、情報発信が可能となったことや、車両の燃料種を平時から分散させていたことで、燃料不足のなかで継続性を確保できたことを語った。
精密加工装置の製造・販売などを手がけるディスコの猪瀬氏は、BCMを会社として維持し続ける主要な仕組みとして、最も重要なことは「経営層のBCMへの参画」であると指摘。具体的な取り組みとして、経営層が参加する「BCMコミッティ」や、社内対象組織による「BCM毎月活動」などを紹介した。
また、熊本地震発生当時の対応では、熊本市内で営業活動とカスタマーサービスを展開する九州支店の現地従業員とその家族へのサポートや、現地に入った支援スタッフへの後方支援の手配を行い、支店の事業継続と顧客の早期復旧に尽力したことなどを語った。
包装材・緩衝材など軟質プラスチック製品の製造と包装設計・包装技術サービスを展開する生出の生出氏は、現在進めているBCPの計画全体の見直しについて紹介した。
見直しの目的としては、(1) 地震、パンデミックなどの災害だけでなく、事業継続を脅かす様々な脅威に対応できる内容にすること、(2) BCPを策定する過程を改めて学びなおし、訓練や演習を行うことで、本当に災害時に柔軟に臨機応変に対応できる組織を作ること、(3) 取り組みを通じて幹部社員、各現場の責任者を育成すること、の3点を挙げた。
コメンテーターとして登壇した銀座パートナーズ法律事務所の岡本氏は、「BCPをどうやって浸透させるか、BCPの本質とは」と問いかけた上で、東日本大震災後に起こった宮城県山元町の常盤山元自動車学校の訴訟事例を解説。
東日本大震災以降の自然災害に伴う数々の訴訟の明暗を分けたポイントとして「安全配慮義務」が問われたことを指摘。企業が同義務を徹底するためには「災害後にあってもいかに情報収集できるか。そして、その情報を適切な場所に、自分が無理なら、上に伝えられるか」が重要であると語った。
第2部後半のパネルディスカッションでは、ファシリテーターの中澤氏が、BCP策定による「負担とメリット」に関してパネリストに質問。北良の笠井氏は、大規模な企業でなくても「知恵や工夫」次第で費用を抑えた様々な取り組みが可能と説明。全員が防災担当となって行う「防災経営」など、同社独自の取り組みの結果、事業が差別化され、顧客である医療施設の患者からサービスを支持される好循環が生まれていることを紹介した。
生出の生出氏はBCPのメリットについて「お客様から評価されることで、従来の取引のさらなる充実に役に立つ」と語り、「BCPを日常のマネジメントシステムの中に組み込む」ことで「有事の対応であるという役割に終わらせるのではなく、経営上の効果につながる手段として活用」することを提案した。
ディスコの猪瀬氏は、同社が展開する中小企業のBCP策定支援の取り組み方について「経営者の方の思いや考えも会社ごとでまったく違う。当初、私どもが用意していた構築ストーリーの雛形ではなくて、それぞれの会社ごとにカスタマイズするやり方で支援を行っている」と説明した。
社員一人一人が災害に備えていくためにポイントとなる「当事者意識」を高める方法については、銀座パートナーズ法律事務所の岡本氏は、BCPによる被災者の生活再建ニーズへの対応を挙げ、「被災するということを一個人目線で、組織の人間を守る為、予防策として福利厚生的にしっかりと教える、知識を与えておくということは、組織の環境として非常に良くなっていくのではないか」と提案した。
■関連記事
「2011年3月11日金曜日14時46分 東日本大震災~現場からの証言 復興に向けての課題と提言~」株式会社深松組 代表取締役社長 深松努氏
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4330
「災害から学ぶ実践型BCP」北良株式会社 代表取締役社長 笠井健氏
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4341
「BCMの継続的取組み / 熊本地震での対応 / サプライヤーへのBCM構築支援の取組み」株式会社ディスコ サポート本部総務部BCM推進チーム 猪瀬順平氏
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4350
「事業継続マネジメントシステム(BCMS)を活用して、経営を強化」
株式会社生出 代表取締役社長 生出治氏
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4355
BCPの浸透に求められる「生活再建の知識の備え」
銀座パートナーズ法律事務所 弁護士・博士(法学) 岡本正氏
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4377
(了)
- keyword
- 東京都中小企業振興公社
- BCM策定事例
- 東日本大震災
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方