(出典:Photo AC)

第122回(2020年10月27日掲載)で、企業のレジリエンスの概念的なフレームワークが提案されている論文を紹介させていただいた(注1)。一方、その時の記事でも言及した通り、企業のレジリエンスに関する研究がまだ発展途上ということもあって、同様に企業のレジリエンスの概念やフレームワークについて論じられている論文は多数存在する。そこで本連載では、今後そのような論文を順次紹介していきたいと思う。

今回紹介させていただくのは、スペインのバレンシア工科大学にある「生産管理・生産技術研究センター(Production Management and Engineering Research Centre)」に所属する研究者2名による論文である(注2)。

この論文では、先行研究について系統的レビューが行われているわけではないが、過去に発表された論文の中から、企業に限らず一般論としてのレジリエンスの概念が示されている2本の論文と(注3)、企業のレジリエンスに関して論じられている6本の論文において、レジリエンスの定義や概念がどのように言及されているかが紹介されている。そして、これら6本の論文における企業のレジリエンスの定義を、次の3つの特性によって整理している(注4)。

a)脆弱(ぜいじゃく)性(vulnerability)
b)適応する能力(adaptative capacity)
c)復旧する能力(recovery ability) 

前述の6本の論文の中で、これらの3つの特性全てについて言及されているのは2本のみであり、他はa)とb)について言及されている論文が2本、b)とc)について言及されている論文が1本、b)のみが言及されている論文が1本である。したがってこれらの特性が全ての論文において共通というわけではないが、これらの3つの特性から考えれば、現状でさまざまな考え方が混在している企業のレジリエンスの概念を全て包括的に説明できる可能性がある。

画像を拡大 図1.  企業のレジリエンスの主な特性(出典:Sanchis他 / Definition of a framework to support strategic decisions to improve Enterprise Resilience)

以上のような検討結果から、本論文では企業のレジリエンスを、脆弱性、適応する能力、復旧する能力の関数として次のように表現されている。