2014/07/25
誌面情報 vol44
「安定した収入が得られるようになるためには地域全体の復活が不可欠」
大槌町の吉里吉里(きりきり)地区に本社がある観光・運送業者の有限会社城山観光も東日本大震災で壊滅的な被害を受けながら奇跡的な再生を遂げた。
観光バスの運行やトラック運送、さらにレンタカー事業などを展開していたが、東日本大震災では、本社社屋と50台ほどあったバスやトラック、レンタカーのほぼすべてを失い、残った2台のバスと1台のトラックで事業を再開させた。被災前に15人いた従業員は、当日会社を休んでいた1人が犠牲になったが、出社していた社員は全員無事だった。しかし、震災後は仕事が無くなり9割が会社を去った。同社常務の松橋康弘氏は、「当時は一次解雇でも失業手当が受けられたため、従業員の生活を考えれば、その方がよかった」と振り返る。
経営者である父が、社員の生活を考えて下した苦渋の決断だった。 長年会社を支えてきた社員が次々と会社を去った。それでも、会社の経営はあきらめず、即再建を決意。会社に残った2人の従業員と共に、整備工場を手作りで再建するなど復興に向け取り掛かった。
当時、唯一の収入は、残ったトラックで建設資機材を運搬すること。1回1万円~1万5000円程度の仕事で、これが1日数回あるかどうかだった。
転機が訪れたのは4月末。町内で被災した小学校が1つに統合され、その通学にバスが必要となった。岩手県バス協会がその仕事を受注。被災した観光会社にも仕事を割り振ってくれた。バスは2台しかなかったが、県外の観光業者が中古バスを無償で提供してくれたり、格安で譲ってくれたことで徐々に仕事がまわりはじめ、そのうちに県内外からのボランティア受け入れに伴うバスの運転や、仮設住宅建設のための職人の輸送など復興関連の仕事も増え始めた。数カ月が経つと、地域で再開する大企業も出始め、こうした企業が従業員の通勤にバスを使い始めた。会社の経営をあきらめなかった父の決断、バス車両提供などの業界の支援、そして地元企業や地域住民からの信頼が、同社の生き残る道を切り開いた。
売り上げは今や被災前を超えるほど成長した。従業員は、一旦解雇してから戻ってきた人も含め現在20人と被災前より増えている。それでも、経営は決して楽ではないという。新たにバスやトラック、レンタカーを買い足し、本社施設も建て直すなど、支出があまりに大きかったためだ。
人手不足も深刻だ。復興需要により仕事は増えているが、雇用が底を打っている。県外の運送業者などは、地元より高い賃金を払う傾向にあり、社員が県外の企業に転職する例もあるという。
復興需要がいつまで続くか分からないという不安もある。「安定した収入が得られるようになるためには地域全体の復活が不可欠」と松橋氏は語る。
誌面情報 vol44の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方