混沌とする今、再び地政学に注目(出典:写真AC)

地政学・地政学リスクとは

地政学は古くからある学問であり、特に19世紀から20世紀初頭においては、盛んであった。例えば、英国の地政学の祖とされるハルフォード・マッキンダー(1861~1947)は人類の歴史を海の力(Sea Power)と陸の力(Land Power)とのせめぎあいの歴史とし、英国とモンゴル帝国をその例に挙げている。つまり、陸上での馬、徒歩等による移動と海上の船での輸送の二元的な比較を基にしている。また、ユーラシア大陸を制するにはHeart Landとされる東欧を制することであると説き、このことがナチスドイツによる第二次世界大戦の勃発につながったとされている。

しかしながら、第二次世界大戦以降、陸上輸送が急速に拡大し、戦争においても、航空戦力、ミサイル戦略が登場すると、地理的状況が地域・国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響が限定的となったことから、急激に衰退した学問であった。

それでは、地政学リスクという言葉は、いつ誕生したのか。実際には2002年9月24日の米連邦準備制度理事会(FRB)のプレスリリースが最初とされている。このリリースの中で、FRBは「地政学的リスクの高まりに伴い、期待される生産及び雇用の伸びの程度およびタイミングについては、大きな不確実性が残っている」としている。この時期は、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件、翌月(2001年10月)から始まったアフガニスタンへの武力行使を経て、イラクの大量破壊兵器保有の疑惑が取りざたされ、翌年(2003年)3月から始まるイラクへの武力行使が確実な状況となっている時期にリリースされたものである。そのため、比較的新しい地政学リスクという言葉の定義は様々であり、確たる定義はない状態である。

世界経済フォーラムの地政学リスク

当初は曖昧であった地政学リスクはその後肉付けされ、今日に至っている。代表的な定義として、世界経済フォーラムが2017年1月に発表した「Global Risks Report 2017」では、地政学リスクとして、下記の6つのリスクを挙げている。

(A) 国家統治の崩壊(例:法の支配の崩壊、腐敗、政治的な行き詰まり等):法の支配の低下、腐敗、政治的な行き詰まりにより、国家統治の機能が不安定化する。

(B) 地域的・国際的な統治機能の崩壊:地域・国際的機関が経済的、地政学的、又は環境的な重要な問題を解決出来ない。

(C) 国家間の地域紛争:二国間又は複数国間の紛争が経済的(例:貿易・通貨戦争、資源の国有化等)、軍事的、サイバー空間内、社会的等の紛争に発展する。

(D) 大規模テロ攻撃:大規模な人的・物理的被害をもたらす政治的・宗教的目的を持った個人又は非国家組織によるテロ。

(E) 国家の崩壊又は危機(例:内乱、軍事クーデター、国家の失敗等):暴動、地域的・国際的不安定化、軍事クーデター、内乱、国家の失敗等に伴う地政学的な重要な問題による国家の崩壊。

(F) 大量破壊兵器:原子力、化学、生物、放射線の技術及び材料の進歩・拡散による国際的に重大な破壊につながる危機及び潜在性。