軍事面など2018年も米・トランプ大統領から目が離せない(出典:Flickr)

2018年の地政学リスク予測

近年の地政学的動向を勘案した場合の2018年に顕在化する可能性の高い地政学リスクは、以下の通りである。

(1)米国による武力行使・戦争行為の可能性の高まり【(B) (C) (F)+(ウ)(オ)】

・現状でのトランプ政権における相次ぐ閣僚の辞任や、ロシアゲート問題等により、公約を具体化する政策がほとんど成立していない状況である。そのため、2018年の中間選挙に向け、何かしらの実績を誇示する必要性が生じている。

・同じような状況で、武力行使に至ったブッシュ大統領(第41代)による湾岸戦争、息子のブッシュ大統領(第43代)による対アフガニスタン、対イラクへの武力行使等の前例もあり、現状のトランプ政権の中枢に軍部出身者が多いことからも、武力行使・戦争行為の可能性を高めている。

(2)中国の政権の安定化と拡大主義【(B)(C)+(エ)(オ)(ケ)】

・中国では2017年の共産党大会において、習近平政権が長期的な安定政権となることが確実となった。そのため、習近平政権が掲げる「中華民族の偉大なる復興」のため、領土的拡大政策が加速するものと見られる。

・香港・マカオに対する引き締め、台湾に対する強硬姿勢の他、南シナ海進出が加速・拡大する可能性が高い。当然ながら、台湾、フィリピン、マレーシア、ベトナム等の反発も強いことから、この地域が不安定化する可能性が高い。

(3)世界中でのテロの頻発(欧州・米国・カナダ・日本・オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール等の先進国でも発生する可能性)【(D)+(ア)(イ)(ウ)(オ)(ク)(コ)(サ)】

・現状でも過激なイスラム原理主義に触発されたと見られるテロが世界中で頻発している。特に、欧州、米国等でのテロが注目されているが、ISの本拠地が崩壊したことにより、今後、先進国でのテロの可能性が高まっていると言える。

・特に、これからは、これまで発生していない先進国、EU諸国の他、日本、ニュージーランド、シンガポールでも、その可能性は否定出来ないと言える。

(4)極右・移民排斥の拡大【(A)(B)(C)+(イ)(ウ)(エ)(オ)(ク)】

・既述の通り、最近の難民の増加等、今後も欧州を中心に大衆迎合的な政策を基に、移民排斥等の傾向が強まることが懸念されている。また、米国においても、その傾向が見られることから、先進国の多くで、そのような傾向が続く可能性が高いと言える。

(5)地域独立運動の拡大【(A)(B)(E)+(イ)(ケ)】

・ナショナリズムの高揚、所得格差等の要因から独立の機運が高まっている地域が増加している。既述のクルド人地域、スペインのカタルーニャ州、英国のスコットランド独立問題、イタリアにおける北部州独立問題、ベルギーにおけるオランダ語圏とフランス語圏の対立問題の他にも、カナダのケベック州、中国のチベット自治区、新疆ウィグル自治区等、枚挙に暇がない状況である。

・今後、これらの地域を中心に独立運動が更に高まり、当該国の政治的、社会的に不安定化する可能性が高いと言える。

(6)統治機能が欠如した国の増加【(A)(E)+(ア)(エ)(カ)(ク)(ケ)(サ)】

・現在、統治機能が欠如している国としては、アフガニスタン、イエメン、ソマリア、リビアの他、現状でもISが支配しているシリア、イラクの一部等が挙げられるが、その全てにおいて、イスラム教徒の武装集団同士の武力衝突が発生している。

・これら地域での武力衝突等が収束する可能性は低いため、今後もこの状況が続くことが懸念されている。また、相対的に国の統治機能が低い北アフリカ諸国でも、統治機能が欠如又は崩壊する可能性のある国が多数あることが懸念される。また、現状では比較的、内政が安定している国でも、「アラブの春」のような可能性は否定できない。

(7)中東が世界の火薬庫【(B)(C)+(エ)(ク)(ケ)(コ)(サ)】

・第一次世界大戦前のバルカン半島は多くの民族問題を抱え、「世界の火薬庫」と呼ばれ、実際第一次世界大戦勃発の原因となった。現状においては、IS崩壊後の中東地域が同様の状態となっている。

・特に、米国、ロシア、イラン、サウジアラビアと言った大国が関与している状況での共通の敵であるISの崩壊に伴い、この地域がモザイク化し、火薬庫化しているとも言える。

(8)東アジア情勢の流動化【(A)(B)(C)(E)(F)+(エ)(オ)】

・北朝鮮による核実験、長距離弾道ミサイル実験等に対し、国際社会の対応は一貫性を欠いており、この問題の収束には、なお、多くの時間を要する可能性が高い。

・一方で、トランプ政権は対北朝鮮に関し、全ての選択肢があると明言していることから、予断を許さない状況であると言える。

(9)イスラムに関する国際社会のナーバスな反応の広がり【(D)+(ア)(ウ)(エ)(オ)(ク)(ケ)(コ)(サ)】

・パレスチナ問題に代表されるように、イスラム教徒と他宗教との対立問題に対するイスラム諸国の反応は明快である。今年も、ミャンマーのロヒンギャ問題に注目が集まったように、今後もイスラム教徒が虐げられているとの情報には、国際社会も敏感になると言える。

(10)資源紛争【(B)(C)+(ア)(イ)(エ)(オ)(キ)(ケ)】

・これまでも天然資源をめぐり、アフリカ、中東では国家間紛争、内戦等が発生している。特に、石油等の鉱物資源のめぐる紛争が多いが、今後は水資源をめぐる紛争が発生する可能性が高い。

・現状において、水資源の問題は世界的な問題となっており、今後、アラル海流域、ガンジス川、ナイル川、ユーフラテス川等の水資源をめぐり紛争の可能性が否定出来ない状況である。

※「企業リスク」 2018年1月号掲載

(了)