(出所)『Cascading Effects and Escalations in Wide Area Power Failures - A Summary For Emergency Planners』

今回紹介する報告書『Cascading Effects and Escalations in Wide Area Power Failures - A Summary For Emergency Planners』(注1)(以下「本報告書」と略記)は、University College London(注2)の  Institute for Risk and Disaster Reduction(リスク・防災研究所)が中心となって行われた研究プロジェクトの成果の1つで、広域停電を原因とするカスケード効果(cascading effect)に特化した報告書となっている。

タイトルにも含まれている「カスケード効果」とは、ある事象が次々と他に影響を及ぼしていく現象のことである。本報告書の序盤では図1のように直線的な連鎖反応(図中の (a))と複雑なカスケード効果(同 (b))との違いを示した上で、ある原因によって生じた結果が別の現象の原因になる(図中で「E/C」と示されている部分)ことによって、より困難な状況をもたらすことが説明されている。

図 1. 直線的な連鎖反応とカスケード効果の違い
  (出所)Cascading Effects and Escalations in Wide Area Power Failures(一部改変)

また広域停電の事例として次のような事例の概略が紹介されている(注3)。

- オークランド(ニュージーランド)で 1998年2〜3月に5週間にわたって、送電線の多重トラブルによる大規模停電が発生した。

- 米国北東部で2003年8月に大規模停電が発生した。送電管理システムのトラブルにより最大48時間にわたって水道、通信、公共交通機関が途絶した。

- 2011年の日本での東日本大震災によって、440万世帯で停電が発生した。さらに福島第一原子力発電所の事故が人災と考えられたため、少なくとも25の発電所が停止され、製油所の能力が30%まで低下し、鉄道、通信、工業、水道、石油供給などに対する連鎖的な途絶の原因となった。

- 2012年のハリケーン「Sandy」が米国北東部にあるいくつかの人口密集地域に影響を及ぼし、数日から2週間にわたって停電が発生し、ニューヨークでは60万人が停電の影響を受けた。公的な報告書では、停電に寒さが重なったために死者が発生していることが強調されている。

- 英国において 2013年12月22日から28日にかけて、悪天候のために送電ネットワークが途絶し、およそ100万の施設が停電した。この事例は英国政府における災害対応シナリオの参考として用いられている。

- イタリア中央部で、2017年1月に記録的な降雪によって15万世帯で停電が発生していた時に、マグニチュード5以上の震源の浅い地震が発生した。30近くの自治体にまたがる約7000世帯では、寒い中で停電が1週間以上続いた。これはイタリアにおいて第二次大戦後最長の停電となった。

- プエルトリコでは 2017年9月にハリケーン「Maria」によって送電網が被害を受け、これが長時間停電の原因となった(本報告書執筆中も停電中)。


本報告書では多くの事例研究をふまえて、広域停電によってもたらされる結果やカスケード効果を助長しうる要因などが分析され、さらに広域停電に伴うカスケード効果によって発生しうる結果が4ページにわたる表にまとめられている。これらは広域停電を想定した訓練のシナリオを開発する時などに使えるのではないだろうか。また広域停電に関するリスクアセスメントを行う際にも参考になるかもしれない。実務的な使いみちが想像しやすい報告書である。

■ 報告書本文の入手先(PDF16ページ/約2.6MB)
https://www.ucl.ac.uk/rdr/cascading/resources/reports-guidelines/Report_Power_Failures


注1) Pescaroli, G., S. Turner, T. Gould, D. Alexander and R. Wicks 2017. Cascading Impacts and Escalations in Wide-Area Power Failures. UCL IRDR and London Resilience Special Report 2017-01, Institute for Risk and Disaster Reduction, University College, London.

注2) University College London はロンドン大学(University of London)を構成する大学の1つ。

注3) この部分は本報告書中の記述に基づいて記載した。

(了)