常識外れの大雪―2月の気象災害―
南岸低気圧と暖湿気による最悪シナリオを想定する
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2021/02/01
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2014年2月、関東甲信地方は2度の大雪に見舞われた。最初は2月8日であり、東京都心で27センチメートル、山梨県甲府市で43センチメートルの積雪を記録した。この大雪により、停電、交通障害などが発生した。しかし、これはまだ「常識」の範囲内の大雪であった。
2度目の大雪は、その翌週の2月14~15日に襲ってきた。東京都心の積雪は8日と同じ27センチメートルにとどまったが、山梨県甲府市では114センチメートルの最深積雪を記録した。これは、それまでの最深積雪の極値(49センチメートル)の約2.3倍であり、まさに「常識外れ」の大雪であった。群馬県前橋市でもそれまでの極値の約2倍(73センチメートル)、埼玉県秩父市では約1.7倍(98センチメートル)の最深積雪を記録した。この大雪により、関東甲信地方(1都8県)で、死者20人、負傷者646人、住家被害589棟のほか、集落の孤立、停電、水道被害、電話不通、交通障害、休校、雪崩、農林水産業への被害などが発生した(一部大雨によるものを含む)。
太平洋側の大雪といえば、南岸低気圧と相場が決まっている。南岸低気圧とは、西日本から東日本にかけての太平洋側の沿岸または沖合を、東ないし北東の方向へ進む低気圧のことである。
図1に、2014年2月、関東甲信地方が大雪に見舞われた2事例の地上天気図を示す。どちらも房総半島付近に低気圧があり、ご多分に漏れず南岸低気圧型の天気図が並んだ。「常識外れ」の大雪をもたらした2月15日の低気圧の中心気圧は996ヘクトパスカルで、驚くほどの強さではない。「常識」の範囲の大雪にとどまった2月8日の低気圧の中心気圧は988ヘクトパスカルで、低気圧の強さとしてはこちらの方がむしろ強い。結局、なぜ2月15日の南岸低気圧で「常識外れ」の大雪になったのかは、地上天気図だけでは分からない。
図1には、低気圧中心の経路をも表示した。二つの事例を比較すると、低気圧中心の経路には相違があることが分かる。すなわち、大雪が「常識」の範囲内であった 2月8日の低気圧は東シナ海から東北東に進んできたのに対し、「常識外れ」の大雪となった2月15日の低気圧は沖縄の南から北東に進んできた。つまり、後者の低気圧の方が、より低緯度から、北上成分の大きい動きをしたと言える。この事実にヒントがありそうだ。
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