2015/01/25
誌面情報 vol47
企業におけるCOPの意味と活用事例
講師:株式会社レスキューナウ危機管理対応主席コンサルタント 秋月雅史氏

災害対応にトップが必要な情報とは
インシデント対応するためにトップが必要な情報とは何でしょうか。こちらの表にまとめてみました(表1)。

左側が組織のトップが欲しい情報。右側が現実に起こることです。トップが欲しい情報とは、簡単に言うと被害の結果と課題です。組織には必ずミッションがあり、それを遂行するために必要な情報があります。平時と災害時のミッションを、各組織がこなせているかが最も知りたい情報なのです。
トップが知りたい情報として、4つ目の「意思決定のできる情報」が最も重要ですが、「これを見て私に何をしろと言うんだ?」と社長に訊かれるような内容では役に立ちません。ただ、現実は表の右側のような情報が上がってきます。いろいろな情報が断片的にトップに伝わり、それについて個別に議論が始まってしまう。COPはトップが見た瞬間に、今、何をしなくてはいけないかが伝わる状態になっていなければいけないと考えています。
COPの定義
COPとは何か。もともとは米軍の軍事用語です。簡単に言うと、「敵がどこにいて、味方がどこにいて、自分たちがどのような交戦状態になっているか」ということを、トップを含めた必要な関係者が瞬時に理解・共有できるようにした情報形態です。自衛隊出身の大熊康之氏の「軍事システムエンジニアリング」によると、米海軍の天才と呼ばれる伝説的な将校たちが作り上げてきた情報処理手法の一部なのです。これを災害に援用すれば非常に効率的な情報処理・意思決定が可能となります。
COPの定義を、いくつか見てみます。大熊氏の著書では、以下のように定義されています。
敵、味方、中立勢力に関する兵力の位置、識別、能力、即応状態(我が攻撃による敵の被害評価を含む)、敵のCOV(物心両面の軍事力発揮の源泉)、敵のCV(決定的な脆弱点)及び予測行動、我が指揮官の意図を自動及び手動で入力、表示するもの。 (出典:軍事システムエンジニアリング・大熊康之氏、一部編集) |
海外の論文を見てみると、以下のように書いてあります。
災害対応に参加する異なる地域・異なる組織の間で充分な情報共有を可能にする仕組み (出典:‘Crisis Management in Hindsight:Cognition, Communication, Coordination,and Control’, Public Administration Review,Volume 67, Numbers1, pp.189–197.) |
そして、私なりの定義が以下になります。
COP(災害の共通認識)を作るための要件 1.発生した複数のインシデントがひと目でわかる 2.複数のインシデントの緊急性・重大性が一覧できる 3.対応優先順位と対応アクションが判断できる |
1つの例を挙げます。地震発生時に社長に対して「応接室の花瓶が割れました」と報告する必要はありません。ただ、それに似たようなことが社長にたくさん報告されています。フィルタリングされていない個別の情報すべてではなく、組織にとって意味のあるインシデント情報が一覧できて、大局観を持って全体像をとらえられることが大事です。
次はレベル感。花瓶が割れた程度の小さな問題なのか、人の命にかかわるような深刻な状況なのか。組織にとってどのくらい重たい問題なのかが把握できることです。最後は、どこからどうやって手をつけるかです。この3つが判断できるのがCOPだと思っています。
災害対応の理想と課題
災害発生時に企業・組織がとるべき行動は大きく3つあります。まず避難や応急援護による「減災」、BCP(業務継続計画)などによる「復旧」、そしてそれらに対する「指揮命令」です。しかし現実は、まず被害情報がそもそも集まってこない。対応の優先順位もわからない。自衛消防隊も機能しない。災害対策本部では誰が何をしているのかわからないという状況が発生します。余談ですが、私は2014年初に、自衛消防隊の届け出はいくつあるのか調べるために総務省に電話をかけて聞いたところ、実に100万隊以上あることがわかりました。しかしながら、これはさまざまなお客様の現状からの推測ですが、自衛消防隊のマニュアル作りや訓練があまり充実していないようです。現在、自衛消防団への訓練依頼が非常に増えています。
さて、災害が発生してある程度時間がたち、一通りの被害報告を見た組織のトップはこう考えるはずです。「被害状況はわかった。それでいつ復旧できるのか。いつから仕事が再開できるのか」と。トップがその責務を果たすためには、被害状況とともに稼働状況も知らせなければいけません。現在は何割くらいの状態で稼働しているのか、お客様に約束した納期は守れるのか、復旧はいつになるのか。そのような情報をトップは欲しているのです。その解決策として、3つのCOPを作ることを提案しています。その3つとは、「被害レベルCOP」、「稼働レベルCOP」、「対応状況COP」です。
災害の共通認識を作る手法
まず、被害レベルCOPのサンプルを見てみましょう(表2)。

人的被害のところに赤黒黄緑とありますが、これはトリアージタグの色です。お客様のところでよく見る被害レベルの報告表では、重傷・軽傷と分けているものがありますが、これはあまり役に立ちません。現役の消防士の方に聞いたところ、腕の骨が折れていても、意識がしっかりしていて大量の出血がなければ、たとえ全治3カ月でもトリアージでは軽傷(黄色タグ)と判断され、病院への搬送は後回しです。私共では、市民レベルで実施可能な簡易トリアージの手法と合わせて、人的被害の報告票を提供しています。次は建物被害です。床・天井・内装でつけています。柱が折れていたらその建物は危険なので、入ってはいけないことになるのですが、素人から見て柱の状態を判別するのは非常に難しいので、こちらにはイラストをつけたマニュアルを作成しています。そのほか火災の状態や停電・漏水などの建物内被害を記載しています。
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