災害対応を早める「状況認識の統一」手法解説
災害対応における効果的な情報共有の仕組み


災害時に、関係組織が連携して対応にあたるためには情報共有が欠かせない。どこで、どのような被害が発生しているのか、それに対してどのくらい対応が進んでいるのかなど、災害の全体像を把握し共有しなければ、組織間で足並みを揃えることはできない。その際に役に立つのがCOP(状況認識の統一:Common Operational Picture)と呼ばれる手法だ。被害状況の変化や、対応状況の変化を色分けして「見える化」することで、関係者が瞬時に情報を共有することができる。本セミナーではCOPの重要性を学ぶとともに、実際に参加者にCOPを作成してもらった。講師は、欧米で使われているCOPを研究し、東日本大震災でCOPを活用し災害復興を支援した京都大学防災研究所教授の牧紀男氏と、COPのプログラム化により組織の災害対応能力の向上を目指す株式会社レスキューナウ危機管理対応主席コンサルタントの秋月雅史氏。

ハリケーン・カトリーナ、東日本大震災でのCOP活用事例

講師:京都大学防災研究所教授 牧紀男氏


平時では、今自分がどういう状況にあって、次にどのような状況が発生するかが分かるので、通常の生活を送ることができます。しかし災害時には、東日本大震災で皆さんがご経験の通り、電車が止まるなどライフラインは寸断され、物資の配給もできなくなります。何が動いて何が止まっているのか、変化する正確な情報を知る必要があります。 

災害対応の基本は、まず「災害によってもたらされた新しい現実を知る」ことです。 

しかし、情報を収集するだけでは、効率的に把握したとは言えません。組織としてどのように対応しているのか、自分たちの状況も把握することが求められます。災害対応時に情報を収集する場合、被害の情報ばかりを取りに行こうとしますが、むしろ重要なのは、どのように対処しているかです。実際に被害が発生しているなら、警察や消防に連絡をとったか、重機を手配しているのかなど。これが「新しい現実を効率的に把握」することです。

次は「関係機関間で情報を共有」することが求められます。通常、組織の仕事はチームでやっています。例えば今日の私で言えば、もし雪が積もって新幹線が止まれば、「止まった」と考えるだけではだめで、主催者に遅れることを連絡しなければいけない。「雪で10分くらい到着が遅れる」ということが伝われば、主催者側でその対応をすることができます。そしてその状況を、主催者側がセミナー参加者に伝達することが重要で、これが「統一された状況認識」となります。その状況認識を持って、適切な意思決定を行うというのが災害時の対応の一連の流れです。

COP(状況認識の統一)
・状況認識とは
 -今何が起こっているのか
 -どう対応しているのか
 -今後どのように対応対処するのか
・上記のことを、対応に関わる全ての人が共有する
・大局観を持つ

対応計画の策定と共有 


COPとは、今何が発生しているか、どう対応しているのか、今後どのように対応するのか、その状況認識を統一して、災害に関わる全ての人が共有をすることですが、米国の危機管理システムであるICS(Incident Command System)では、災害時に情報共有すべき項目をICSForm201として概括説明しています(図1)。


まず左側上部に状況認識、下部に組織編成を記載します。同じように、右側上部に資源配置、下部には活動方針を書きます。災害対応をするうえで、みんなが共有すべき基本的な情報を記載します。次に具体的に、組織として状況認識の統一をどうやって作っていくのかをまとめたのが図2です。

中央左側に大きく「状況分析」「資源配置」とありますが、この2つは情報元が違います。状況分析はマスメディアや、行政であれば災害情報システムなど外部の情報です。資源配置は、組織内各部局からの被害・対応状況なので、内部からの情報になります。これらの情報をCOPとしてまとめ、当面の対応計画であるIAP(Incident Action Plan)を作成します。そして図の右側はIAPを計画実行する部隊になります。