広報は情報参謀

そんな森会長だが、政治家に転じる前は新聞記者をされていた。日本工業新聞(産業経済新聞社)で一面トップ記事を書いたり、社長賞をもらったこともあるそうだ。取材相手の「言いたくないこと」「言ってはいけないこと」をあの手この手を使って聞き出そうとするのが仕事である記者の特性を十分ご存じのはずだが、質疑応答で冷静さを失ってしまっては元も子もない。会見を前に、組織委の広報担当者が想定問答(Q&A)をどこまで詰めたのか、あるいはメディアと相対するにあたっての基本的認識を森会長とどこまで共有したのかを聞いてみたくなる。

そう言えば、“火に油”の記者会見で思い出されるのが2018年5月の「日本大学アメリカンフットボール部悪質タックル騒動」。5月23日夜に部の監督とコーチの緊急会見が開かれたが、司会に立った広報担当が質疑途中で一方的に会見を打ち切ろうとする姿勢に記者側から「まだ質問が」「貴方のせいで日大ブランド落ちるよ」に「落ちません」などと声を荒立てて応酬。テレビ局の質問のやり方も問われたものの、司会者の高飛車な態度がテレビやネットなどで何度も取り上げられ“危機管理広報”の失敗例と評された。この司会者もメディア出身、元通信社論説委員長まで務めた方だった。

いずれにせよ、企業・団体の説明責任が強く求められる時代だ。どのような組織でも、どんなに気を付けていても、思いがけず事件・事故、トラブルに巻き込まれることはある。大事なのは非は非と認め、いかに迅速に組織の責任ある対応を世間に示せるかであり、起きてしまった事象から受けるダメージをできるだけ最小限に抑えることにある。

「人は起こしたことで非難されるのではなく、起こしたことにどう対応したかで非難される。」―危機管理の要諦として久しく語られる教訓である。とりわけ危機発生時における広報対応=危機管理広報が極めて重要になる。事実関係や今後の対応策などを各ステークホルダーに適切に情報発信するのはもちろん、取材や記者会見でのメディア対応も迅速、誠実、的確、正直に行わなければならない。何となれば、一般の読者・視聴者にとってメディアが実質的な情報源となるからだ。

何があってもおかしくない。広報は情報参謀、最大限効果的な“情報の見せ方”を担う。さまざまな企業・団体の広報担当者にとって“明日は我が身”、組織委の今回の記者会見を“他山の石”として欲しい。