従業員の防災意識の向上策について考える
具体的な行動につながる「構造化」が鍵
気象とコミュニケーションデザイン/
代表
渡邉 俊幸
渡邉 俊幸
2001年より愛知県旧西枇杷島町の防災担当として災害対策に従事。2005年に民間気象会社に移り、情報を伝える側として全国の自治体などに向けて防災気象情報を提供。その後、民間シンクタンクを経て、2013年よりオーストラリア・クイーンズランド大学院修士課程にて気象情報の利用に関する研究を進める。2014年から水害対策で世界の先端を行くオランダに拠点を移し、気象情報の利用や水害対策についてコンサルティングを行う気象とコミュニケーションデザインを設立。2017年から2018年にかけて、世界銀行の防災分野のシニアコンサルタントとしてエチオピア政府を対象としたプロジェクトにも参画。国際基督教大学卒業。1977年、愛知県生まれ。
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多くの危機管理担当者にとって、従業員の防災意識の向上が大きな課題になっていると聞きます。先月講師を務めさせていただいた気象情報活用レベルアップセミナーの質疑応答でも、従業員の意識啓発の難しさが話題となりました。リスク対策.comが実施する危機管理担当者向けアンケートでも、従業員の防災意識向上が上位の課題としていつも選択されるそうです。
では、実際にどう対応していけば従業員の防災意識の向上を達成できるのでしょうか?意識啓発のプログラムを実施していくのも一つの手かもしれませんが、限られた時間やリソースでどこまで達成できるか定かではありませんし、成果がなかなか見えにくいのも事実です。そもそも変えたいターゲットが「防災意識」というのは、対象が抽象的で大き過ぎる可能性もあります。
そこで今回の記事では、「防災意識を高めなければならない」という視点から離れ、「従業員の防災行動が望ましいものになれば結果よし」という考え方を紹介したいと思います。その上で、従業員の個別具体的な行動を変えるためにはどのようなプログラムを組むべきか、筆者が教職課程の中で学んだ方法を下地としてまとめていきます。
「防災意識の向上」ではなく個別具体的な行動で考える
本題に進む前に一つお聞きしたいのですが、危機管理担当者の方が従業員の災害時の対応を見て、防災意識が足りている、あるいは足りていないと実感するのはどのようなときでしょうか?
水害対応であれば「台風に関する情報を社内向けに発信しても、危機感が共有されているように見えない」といった例や、「災害発生に備えて避難の必要性を訴えかけているのに実際に避難した人は少ない」といったことが「防災意識が低い」という評価に結びつくのではないかと思います。
何らかの対策を取るべき時に期待していた行動が見られるか否か。これが従業員の防災意識を問題視する背後にあるのではないでしょうか? その場合、極端に言えば、適切な行動さえ取られていれば、個々の従業員の内面で防災意識の温度差が多少あったとしても、企業としては結果的に問題ないはずです。
こうして考えていくと、望ましいと考えられる個別具体的な行動をまずは定義し、それを従業員が行動に移すことを確実にするアプローチも可能であることに気付きます。防災意識の向上のための働きかけを行ってもなかなか効果が上がらないと悩まれている場合、個別具体的な行動が取られるように働きかけていく手法を採用するのも一つの手だと思います。