2016/09/19
誌面情報 vol48
Q4アメリカの消防は、どのような方法で危険物対策をとっているのでしょうか。
消防士は科学者ではないので化学や物理を徹底的に学ぶのではなく、必要なときにどう調べればいいのかを理解することが非常に重要になります。これをサポートするものとして、アメリカでは、米国運輸省が発行しているEMERGENCY RESPONSE GUIDE BOOK(ERG:緊急時応急措置指針)があります。すべて英語ですが中身はシンプルに構成されているので日本人の隊員でも辞書を引く感覚で使うことができます。在日米陸軍消防本部では、日本人スタッフも含め、ほぼ全員、ERGを使えるように訓練しました。米国医療図書館が無料で提供しているスマートフォンのアプリ「WISER」でも簡単に調べられます。

Q5日本でこうした教育ができていれば、工場火災などの被害は減らすことができるでしょうか。
近年、スタンダード教育の重要性を痛感したのは2012年に日本触媒の事故が姫路製造所で起こったときです。この事故ではアクリル酸で防護衣が溶けました。防護衣の限界を理解していなかったのではないかと思いますし、そもそもの問題点は、なぜ至近距離から人力放水したのか、消火戦術の組み立てに疑問を抱きました。消火戦術には、大きく分けて、攻撃モード、防御モード、不干渉モードの3つがありますが、どの戦術で対処するかを決定するのが指揮官の大切な役割です。
火を直接消そうとするのが攻撃モードで、延焼しないように人や建物を守るのは防御モード、人命や財産を守るにはリスクが大きすぎる場合は不干渉モードです。日本触媒の事故では完全に攻撃モードで15mの距離から放水していました。私が指揮官なら、まず防御モードで半径800mの従業員や住民を待避させ、後に延焼防止をメインに無人放水にて対応したはずです。なぜならERGでもWISERでも、アクリル酸の潜在危険性を調べれば危険距離がそのように記されているからです。
爆発も起きていましたが、周辺従業員の避難が終えたら不干渉モードに切り替えます。このように戦術を組み立てていれば死傷者は出なかったはずです。戦術の優先順位とそれを決める根拠を教育されないのは問題だと思います。
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