※画像はイメージです(出典:Pixtabay)

日本でも、すでにおなじみの基本的な火災戦術VEIS(ヴェイス/ Ventilation:排煙、Enter:屋内進入、Isolate:隔離、Search:検索)の考え方がアメリカ全土に浸透した理由は、下記の「CHARACTERISTICS OF HOME FIRE VICTIMS(住宅火災による被災者特性)」などのNFPA(全米防火協会)に報告されたさまざまな火災統計資料や火災原因報告書を研究した結果によるものが大きい。

特に過去の住宅火災における逃げ遅れ者の44%がベットルーム(寝室)で発見されていること。次に15%が寝室につながる廊下で倒れていたことなどから、「プライマリーサーチ」と呼ばれる最初の検索救助活動は、基本的に寝室やその付近と思われる場所から始めることなどが共通認識となっている。

また、火災原因として日本の生活習慣と違うのは、浴室でのリラクゼーションで使うアロマキャンドルや寝室で楽しむ香りの良い線香などがあり、これから外国人の居住者が増える日本においては、居住者の人種、宗教、生活習慣によっても検索順序や火災原因特定の発想の転換が求められる、

下記の資料では、特に住宅火災による死傷者の年齢や人種別、死傷した場所や時間、その理由や火災原因まで、細かく分析されている。

■「CHARACTERISTICS OF HOME FIRE VICTIMS」(NFPA)
https://www.nfpa.org/~/media/files/news-and-research/fire-statistics/victim-patterns/oshomevictims.pdf?la=en

このような報告書を深く読み取ることで、どのような教養や実践訓練が必要かが毎年、消防局内で検討され、火災防御訓練も常に新しい視点や工夫、装備などを取り入れて、研究を重ねている。

さらに地域の火災特性はもちろん、季節や時間帯による住宅環境変化などもリスクとして考慮しながら、既存の消防装備や出動態勢に応じた火災戦術のフォーメーションなどを作っている。

そういう意味では、火災原因報告書は統計のためではなく、次の火災による死者や殉職者を出さないための貴重なエビデンスとして捉え、火災予防はもちろん、訓練のカリキュラムの改善に生かす必要が有ると思う。

下記はVEISをいかにわかりやすく隊員に教えるためのビデオとして、非常に参考になると思う。一般住宅火災のシナリオに基づき、45分間のワークショップ形式で、隊員達の考えさせ、ディスカッションする時間も入れながら進めている。



Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(出典:Youtube)

1、シナリオの指令内容
・午前6時45分、一般住宅火災で2名の子供が逃げ遅れた模様
・誰かが一旦、火災建物から避難したが、再び、火災建物に入って行き、子供を探しているという通報内容

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

 シナリオの平面図はこちら

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


消防対象物は方角に関係なく、無線交信の共通認識として、先着隊が最初に位置した道路に面した側をA(アルファ)、向かって左側をB(ブラボー)、対面をC(チャーリー)、向かって右側をD(デルタ)とする。

また、左側の対面側はBC、右側の対面側はDCなどと表現する。

・Side AとSide Dが道路に面している
・建物にアクセスするには正面からとDC側にゲートがある
・到着時、建物は炎上しており、AD側角に濃煙が吹き出している
・C側の1階ドアは開いている
・赤ちゃんを抱いた女性が「3分ほど前に主人がC側のドアから、BC側の角の寝室にいる2人の子供を助けに屋内へ戻っていきました」
・赤ちゃんを抱いた女性は咳き込んでおり、声はかすれている

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

まず、現場到着時、先着隊が一番、早く、安全に、確実に逃げ遅れた要救助者を
助けることができるか?

優先順位として、表の玄関ドア、裏の勝手口、1階部分の各部屋の窓の順で、火災の状況に応じて、隊員が早く、安全にアクセスできる条件で、検索救助を開始する。この場合、放水体制の確保を待つ必要はない。

2、あなたの火災戦術計画は?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

現場到着しているのはポンプ車2台(隊員数各4名計8名)、梯子車1台(隊員数3名)、高規格救急車2台(救急救命士各3名計6名)、指揮車1台(3名)という前提。

① 何が必要か?
・活動隊員
・装備
・その他

② 先着隊の初動の優先順位は?
・消火作業
・検索
・排煙
・救助
・要救助者の救護

③SLICERS (行うべき戦略と戦術)
Sequential Actions(活動手順)
・Size-up (現場状況把握)
・Locate the fire (火点の特定)
・Identify and control flow path(煙の流路特定と制御)
・Cool the space from the safest location(最も安全な場所から屋内を冷却)
・Extinguish the fire(消火活動)
Actions of Opportunity(機会行動)
・救出
・救助

<5分間、上記のそれぞれの項目について考えて、書き出してみて下さい>

シナリオの付加想定のいくつかで、興味深かった判断内容は

・火災建物から救出してきた女性の声色や鼻の穴の煤の状態、女性が腕に抱いた赤ちゃんの酸欠状態から、パラメディックはどのような救急処置を優先的に行い、消防隊や指揮隊は、住宅内のどこで黒煙を最初に発していたか?を知り、火点を特定すべきか?
・十人の家族構成とペットの数などから、あと何台、パラメディックの救急車を要請するべきか?また、獣医の手配をどうするか?
・火災原因調査のために必要な画像や映像の撮影を誰が行うのか?
・Cascade(キャスケイド:空気呼吸器の予備ボンベ)の必要本数は?
・後着隊への活動指示と有効な情報提供の優先順位は?
・進入箇所、第1検索箇所、退出箇所の判断。
・誰が何の装備を持って、それぞれどこから同時進行で活動を開始するべきか?
・幼児、小児、ペットの救護場所はどこが望ましいか?
・2階建ての一般住宅火災で、どのように梯子車を有効的に活用するか?
・REHAB UNITS(リハブ ユニット:消防士のための救護ユニットで飲み物や食べ物、冬場は暖を取るための毛布や簡易ベッド、夏場は熱中症にならないための冷房装置、休憩ベンチや除染シャワーなどを積載したトラック)が必要だとしたら、どこに設置するか?
※REHAB UNITSの詳細パンフレットはこちら:
https://www.fema.gov/media-library-data/1449782201051-3ac48cdc67062edd0d8ff94483ee6d23/cert_firefighterrehab_ppt.pdf

・警察への必要な情報提供内容は?


3、最も早く安全に要救助者を救助できるルートは?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・玄関ドア
・勝手口ドア
・いずれかの窓
この場合、寝室で子供達が寝ているという女性の証言から、寝室に直接アプローチできる窓からの進入が望ましいかもしれない。

4、VEIS

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

高リスク/高効果、すでに要救助者の場所がわかっている場合、開口部からの屋内進入による要救助者の検索救助を行う。

VEISの基本は隊員2名1組による、検索救助で、燃えていない部屋から進入し、アクセスポイントにして、部屋のドアにより、火点から安全な区画を隔離しながら行う。

たとえば、要救助者を発見し、救出した場合、燃えていない部屋へ連れてきた後は、部屋のドアを閉めて、要救助者と活動隊員を安全に守る。これを要救助者の救出完了まで繰り返す。

5、何が必要なのか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・必要隊員数(VEISを行うための)…最低2名
・検索可能な部屋…できる限りの検索は行うが、もし、明らかに隊員に危険が生じる環境(炎上中や倒壊の危険があるの室内)で、救出可能かもしれない不確定な情報の場合、居るか居ないかわからない要救助者を検索しないこと。隊員の殉職を予防することは大事。
・ドアや壁による区画(火災から隔離する)…外部から開口部を破壊して屋内進入後、その部屋を火災や煙から安全に保てるか?安全な部屋を確保できなければ、隊員も要救助者も危険な状態になる可能性が高い。※以前は、この考えは無かった。
・進入可能な開口部…屋内進入するために窓を割ってしまった場合、新鮮な酸素が継続して流入するため、炎上中の火点の延焼が拡大してしまう。屋内に火点から隔離するドアか壁があることを確認し、窓を割ることが基本。
・後着隊か、残った隊員は、最初の2名の屋内進入と同時に消火活動を開始する。または、屋内進入を決定すると同時に放水準備を開始する。

6、どのような道具が必要なのか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・2連梯子(設置可能な場合)
・ハリガンなどの開口部破壊器具セット
・ニューヨークフック(検索等に使える長すぎない鳶口等)
・サーモカメラ
・その他、RITパック(緊急脱出、応急救助セット)、可搬ブロアーなど、必要に応じて器具を選択。

7、活動手順 ステップ1

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・もし、先着隊の場合で、早急に要救助者を救出できる状態の場合、無線にて、現場活動状況を関係小隊に通知し、また、後着隊の隊長らにも屋内進入箇所や建物内部の活動隊員数、消火活動状況などを伝える
・屋内進入に適している開口部を選択する
・梯子の先端で窓を割らないこと。炎上中の場合、窓を割るということは酸素が流入して延焼が拡大し、自分に向かって火炎が猛スピードで襲って来ること。また、逃げ遅れた要救助者も活動隊員も危険な状態になる。その他、梯子の先端に物理的なインパクトを与えることで、伸梯に支障が生じる可能性がある
・要救助者を救出できるよう、開口部の真下の適切な位置に梯子を架梯する
・煙や有毒ガスがない状態を確認し、屋内のドアコントロールにより活動の安全環境を可能な限り保持する

8、活動手順 ステップ2

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・屋内進入隊員は梯子を登り、鳶口により窓を破壊し、進入隊員が怪我をしないことはもちろん、要救助者の救出時に怪我をさせないよう、窓枠に残ったガラス片などを素早く、きれいに除去する。梯子の確保隊員は眼にガラス片が入らないように注意
・屋内進入前に鳶口で、窓の内側に要救助者が居ないかをチェックする。視界がクリアな場合は、視認のみ
・床を鳶口等で叩いて音を出し、要救助者の反応を伺う。または、助けに来たことを伝える
・屋内の煙や火炎の状況を把握し、外の隊員に伝える
・サーモカメラで壁等の温度を計測し、摂氏260度以下(皮膚感触温度が摂氏204度以下)であることを確認する。もし、これ以上の温度の場合、検索時にドアノブや金属部分に触れるとやけどをする危険が大きく、活動に支障が生じる
・5 L's (lift,life,layout,location,lift :天井を這っている煙の状態、要救助者、間取り、火点の位置、天井を這っている火煙の状態)を片手にフラッシュライトによる視認、もう片方は手の感触で内部環境の状況把握を行う

9、活動手順 ステップ3

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・ニューヨークフックを窓に立てかけて屋内進入中の表示サインとする
・窓の高さや室内の家具にもよるが、窓の下に机や椅子などがない場合、できるだけ、ヘッドファーストで片手を床に付ける体制で上半身から開口部に進入する
・視認性が悪い環境下での屋内検索時も視認性が良好の場合もドアが開いていれば、早い時点ですべてのドアを閉めながら検索を開始する。火点への酸素供給を予防する。なお、活動に支障を生じるため、閉めたドアに鍵を掛けないこと
・2番目の進入隊員が梯子を登り、1番目の進入隊員の検索活動場所を特定する
要救助者を発見し、火炎を隔離した部屋に搬送後、すぐに部屋のドアを閉めて安全環境を保持する。家族の場合、夫婦で同じ部屋に寝ている場合、別々の部屋で寝ている場合など、一人が発見された場合、その近くにもう一人居ることも察知すること。子供部屋も近くにあることが多い。外部から部屋の窓を見たとき、アニメやヒーロー柄のカーテンがある部屋は子供部屋である可能性が高い。また、Tot Finderなどの消防士に子供を見つけてもらうためのステッカーが窓に貼ってあるなど、確認すること

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


 ・サーモカメラで室温の変化などを監視する。

10、活動手順 ステップ4

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)


・プライマリーサーチを行う
・もし、要救助者を発見した場合、2番目の進入隊員に伝え、無線でも伝える
・要救助者と火災状況をトリアージする。たとえば、要救助者に意識が有り、窓に立てかけた梯子を伝って降りることができる状態か?意識不明の場合は、どうやって救助するか?意識がある場合、火災が鎮圧するまで、救出のリスクを避けるために安全な部屋で待避できるか?必要な応急処置は?など
・要救助者の救出方法についてどのような手段があるのか?
  窓から救出するのか?ドアから屋内を通って救出できるのか?
  2連ばしごを並列に立てかけて救出できるか?
・他に安全に救出できる開口部はあるか?
・玄関等のドアから救出搬送する方法が一番安全であるし、理想であるため、その状態になるまで、どこでどのうように待避可能か?窓からの救出はリスクが大きい

11、活動手順 ステップ5

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・要救助者を建物外へ搬送し、安全な場所で救護する。
・梯子を別の部屋の開口部に立て替え、必要に応じて検索範囲を広げる。
・もし、検索範囲を広げる場合、検索を行う2名の隊員は交代して、空気呼吸器の残圧を可能な限り、隊員間のエアーを均等に使う。

12、VEISの次は何を行うか?

出典:Vent Enter Isolate Search with Lieutenant Mike Maier(Youtube)

・他の部屋を安全に検索できる状態か?すでに検索した部屋と同じ階の部屋の検索を開始するのか?
・現場状況は?
 ・廊下や通路はどのような状況(火、煙、熱、温度等)か?ドアコントロールの状態は?
 ・検索した部屋の安全状況は?一酸化炭素が充満していないか?
 ・火点の位置は? 
 ・建物の内部構造変化は?延焼や熱による倒壊の危険は無いか?
 ・消火隊は鎮圧状態にあるか?苦戦しているのか?
 ・同行隊員の疲労具合や空気呼吸器の残圧、経験度、活動制限事項など安全に活動できる状態か?救出や脱出できる能力を持った隊員か?
 
45分のビデオで35コマのスライドで説明しているため、ここまでを前半とさせていただきます。

いかがでしたか?

米国の多くの消防学校の初任課教養で教わることは、「火災現場における危険回避の手法は、それぞれの現場で危険に遭遇した体験者が自ら進んで共有することで、次の現場活動を安全にする。一度、火災が発生すると、リスクの規模によっては複数の被災者や家財、近隣の家なども延焼や損害を受けてしまう。特に大火災の場合、現場の危険レベルについては常備消防も非常備消防も区別は無く、同じリスクが襲ってくる。消防職員も消防団員も地域住民を守る使命は変わらない。そのためにはまず、自分自身の身を守るためにいつでも災害対応できるように心身を準備し、十分な訓練を継続して行なっておく必要が有る」ということ。

現場活動上の危険リスクと有毒ガスや化学物質の経皮吸収や吸引などの健康リスクについても発がん物質の種類や曝露量、曝露する可能性のある環境によっても異なることなども具体的に学びます。

■火災現場における化学物質別発がんリスクについて
https://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol98/mono98-7.pdf

■消防士のガンを始め健康リスクについて
https://www.cdc.gov/niosh/firefighters/

上記のサイトのように、日本でも消防士の健康リスクについて詳しく調査し、予防する必要を強く感じます。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp
info@irescue.jp