2021/04/11
【オピニオン】新たにリスク部門に着任した人たちに贈る言葉
危機管理の取り組み方は、企業の業種・業態、規模、地域性などによってさまざま。だが、 組織を取り巻く環境変化に常に目を凝らし、起こり得るリスクを想定して準備を怠らず、社員の安全と事業の継続を確かなものにして社会的責任を果たすという役割は共通だ。防災やBCP、リスクマネジメントの現場をまわすリーダーに、今の取り組みと仲間へのアドバイスを聞いた。
危機管理をアップデートするために
クレオ(東京都品川区)
リスクマネジメント室室長 永井 勝氏
永井氏のアドバイス
❶ 細かい文書づくりにこだわらず、止められない事業と継続のための戦略を決め、その実現手段となる戦術をしっかり準備する。
❷ もし防災・BCPの気運がまだ盛り上がっていないなら、興味を持ってもらうところから始め、徐々に味方を増やす。興味を持って取り組む事業部は強くなる。
❸ 成果は見えにくいが、何かあった時、後悔しないように。時折かけてもらう「ありがとう」がモチベーションになる。
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
――会社の概要を教えてください。
企業の業務管理・処理にかかるITシステムやクラウドサービスを提供しています。4つのグループ会社を含め全国に拠点が点在し、従業員は全体で1400~1500人。客先に常駐して業務を行っている者もいます。
クラウドサービスやシステムの保守は、災害時も止めることができません。特に決算期、あるいは年末の繁忙期は、人事給与や会計のシステムが止まってしまうと大変なことになる。当社はシステムの運用サポートも行っていますから、仮に拠点が被災しても、お客さまの業務が滞らないようにしておく必要があります。
――BCPにはかなり前から取り組んできたのですか。
私自身がBCPに初めて携わったのは十数年前です。当時はグループ内の子会社に在籍していました。社長が意欲的で、いきなり専属で任された。まだBCPが一般的ではない頃で、私たちは「レアリスク」と呼んでいました。
自然災害に限らず、社員が急に集団離職するとか、ある日突然主要顧客との取引が全てなくなるとか、あまり発生しないであろうリスクを可視化し、影響度の大きいものは事前に対応方針を決めておく。そうした活動をしていたのが2004~2007年ごろです。取り組みは、親会社より子会社の方が早かったんですね。
その後、2008年にBCMSの認証を取得。この時、マネジメントの文書も細かく作り込みました。が、そこで起きたのが東日本大震災です。せっかく作り込んだ文書ですが、現実の大きな災害を前に、ほぼ使えませんでした。結局、地震の際にどういう被害が出るかは、さまざまな条件に左右されるからです。
分からないことを細かく規定するより、止めてはいけない事業を明確にし、継続のための戦略とその実現手段となる戦術をあらかじめいくつか決めておく。3.11を機に、私自身、そちらを重視する方向にシフトしていきました。
そうして研究しながら取り組んできたところ、2016年に親会社、いまのクレオに出向となり、18年に転籍。これまでの経験を生かし、今度はグループとしてのBCP/BCMを進めてほしいということで、私に白羽の矢が立ったと理解しています。
親会社ではいったんゼロベースに立ち返り、16年に幹部社員向けのマネジメント研修を実施。翌年から従業員の防災教育を始め、18年から防災研修を社内に立ち上げて、救命講習とセットで受講してもらっています。救命講習の受講者は2年間で全社員の約40%に達し、東京消防庁から「救命講習受講優良証」の交付も受けました。
そうして防災が根付いてきたので、2019年からは幹部社員を集めてBCPの戦略づくりに着手。しかし、ご承知の通り新型コロナが発生し、現在は取り組みが止まってしまっている状況です。
【オピニオン】新たにリスク部門に着任した人たちに贈る言葉の他の記事
- 常に問う「本当に命を守る行動が取れるのか」
- 「リスク評価アンケート」を従業員への教育活動に
- BCPはより戦略的に、複数シナリオで準備
- 新しい力でリスクマネジメントのDXを起こそう
- 3つのスキルと3つのワークを意識して
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/12/05
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方