2016/05/18
誌面情報 vol50
伝えるべきは、製品ではなくて知恵
東日本大震災の時に、避難所で寒さをしのぐためにアルミブランケットを羽織っている被災者を見た読者も多いだろう。
備蓄している自治体や企業は多い。アルミブランケットの原理は人体から発する放射熱を利用し、体の周囲の空気を暖め、その空気を閉じ込めることで寒さをしのぐことができるというものだ。しかし、2013年夏の隅田川花火大会がゲリラ豪雨で中止になった時に、このブランケットが誤用された。テレビで確認すると、びしょ濡れになった浴衣の上からブランケットを羽織ってしまっているのだ。着ているものが水にぬれていると、液体を気体に変化させる時に気化熱現象で体温を奪っていく。熱を奪われて下がった体温を、アルミブランケットがいくら放射しても体は暖かくならない。ブランケットそのものが暖かいわけではないからだ。その結果、避難した先の体育館でアルミブランケットを羽織った人が「寒い」と訴える事態が発生した。
あんどう氏は「水に濡れたら、乾いたものに着替えない限りどんな防災グッズを使っても暖かくならないという基本的なことを知らなくては、正しい対策はとれない。製品ではなく、知恵を伝えてほしい」と話す。
生活の言葉で防災を語ろう

あんどう氏は「防災担当者は、防災の言葉で防災を語るのではなく、生活の言葉で防災を語ってほしい」とする。例えば、なぜ登山では荷物を運ぶためにリュックを背負うのか。これは、「荷物は体から離れて揺れると2倍重くなる」という慣性の法則と作用・反作用の法則に由来する。リュックを背負い、体に密着させて荷物の揺れを抑えることが、重い荷物を運ぶコツなのだ。では、私たちが通常利用しているカバンではどうだろうか。例えば肩掛けのカバンであれば、災害時に肩にかけたまま走ろうとすると、揺れによる反作用が働いて重く感じてしまう。いっそ洋服のなかにカバンごと入れて抱えこんでしまうなど、体に密着させることで荷物は軽くなる。このように、アウトドアを通じた生活の言葉で避難や防災を語るのがあんどう流だ。
「家族の安全が守られてこそ、企業の担当者は安心して会社に留まることができる。家庭を守れない人には、組織も守れない。想定外に対応するため、生活の知恵を伝えることが、日々の暮らしそのものを守ることにつながる」(あんどう氏)。思わず人に教えたくなるような防災の知恵を従業員に伝えることが、組織の防災意識を変えるきっかけになるのかもしれない。
日本トイレ研究所のWebサイトでも自分で作れる簡易トイレの作り方を公開しているので参考にしてほしい。 ■日本トイレ研究所「災害時に使えるトイレの作り方」 http://www.toilet.or.jp/dtinet/311/douga.htm |
誌面情報 vol50の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方