生活の言葉で防災を語ろう

1995年の阪神・淡路大震災で被災した経験から、独自の「アウトドア流防災」を提唱するあんどうりす氏によると、「たった1つのこと」を知っていれば身の回りにあるものでオムツもトイレも作れてしまうという。災害時、家庭でトイレを備蓄していなかったら、清潔なトイレ環境をあきらめるしかないのか? もし会社で備蓄用簡易トイレをすべて使い切ってしまったら、企業のBCP担当者は何を考えなければいけないのか? 防災における本当の知恵とは何かを考えてみたい。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月18日)

「レスキュー隊員や自衛隊員の家族に、防災講座を開催したこともある。なぜなら、彼らは災害が起こってしまえば現場に駆けつけなければいけないのに、家族に対しては防災リュック1つ渡しておけば安心と思っている人が多い」と、アウトドア流防災ガイドのあんどう氏は災害対応のプロの家族の悩みを打ち明ける。 

あんどう氏は自身の被災経験をもとに2003年から講演活動を開始。日常にも役立つ防災の知恵が詰まった講演は、主に子育て中の主婦層の間で口コミで広がり、現在では年間100回以上の講演会を実施している。

100通りのオムツの作り方
災害時、乳幼児がいる家でオムツがなくなってしまったらどうすればよいだろう。あんどう氏は「私は身の回りにあるもので、100通りのオムツの作り方を知っている。それはオムツの仕組みを知っているから」と話す。オムツの機能とは、要するに外側に防水機能が、内側に吸水機能があればよいという。この仕組みが分かっていれば、例えばレジ袋でオムツを作ることも可能だ。レジ袋の両側にハサミを入れて切り開いた後、赤ん坊の股に当たる部分にいらなくなった清潔な布やタオルを敷く。その後、赤ん坊の股をくるむようにしてビニールで包み、両端を結ぶのだ。

もちろん、普通のビニール袋でも工夫すればオムツを作ることもできる。「外側は防水、内側に吸水」機能があれば、何を組み合わせても構わないという。 

実は備蓄用簡易トイレも同じことが言える。市販されている簡易トイレの正体も、ビニール袋の中に吸水性の高いシートなどを貼り付けているものが多い(もちろん、そのほかに凝固剤や消臭剤をパッケージにしているものもある)。最悪の場合、野外であれば段ボールを補強し、その上にゴミ袋などのビニールをかぶせ、なかに新聞紙などを細かくちぎったものを入れておけばよい。ゴミ袋が防水の役目を、新聞紙が吸水の役目を果たす。オフィスビルであれば、便器の上にビニールをかぶせ、そのなかにシュレッダー内に発生している紙屑などを入れてもいいだろう。防水機能と吸水機能、この2つの機能さえ分かっていれば、万が一備蓄トイレがなくなってしまった事態に陥っても、知恵を働かせることで衛生的な環境を保持することができる可能性が高まる。