2021/06/03
防災・危機管理ニュース

市原市は6月2日、災害時に高齢者、障害者、妊産婦など、避難所の生活において特別な配慮が必要な人とその家族を受け入れる「福祉避難所」の開設訓練を千葉県立市原特別支援学校の体育館で実施した。一般社団法人福祉防災コミュニティ協会が指導にあたり、市内の福祉関係24施設31名、防災・福祉担当の市職員14名など合計49名(講師を除く)が参加した。

同市ではこれまで、市内の福祉関連施設と「災害発生時における福祉避難所の設置運営/介護活動に関する協定」を結んできたが、福祉避難所の開設訓練は実施できておらず、また令和元年の大規模災害時も、実際の福祉避難所開設には至らずに済んでいた。ただ、潜在的には利用希望者が存在した可能性もあることなどから、今後の災害対応への備えとして、今年度からマニュアル作成の指導に取り組み、この日、初めてとなる訓練に臨んだ。
今回の訓練では、市内で震度7の地震が発生し、電気、ガス、水道、電話、インターネットのライフラインが全てダウンしたと想定。その上で「近所のお年寄りが避難して来てしまった。福祉避難所を開設するしかない」、「要配慮の避難者から受け入れの要望がある」という状況に対し、福祉避難所の開設指示が発令されたところからスタートした。現実として必要なコロナ対策を実施しつつ、訓練においても感染症を考慮した内容に取り組んだ。

訓練参加者は「施設運営者役」と「避難者役」の2班に分かれ、色の異なるビブスを着用。施設運営者役は、指名されたリーダーの指示のもと、マニュアルに沿って開設作業を行いつつ、来所する避難者の受付や避難所内への誘導、災害対策本部からの支援品の受け取りなどの対応を行なった。災害対策本部からの支援品では、水を使わずに排泄物をラップで密封できるバッテリー駆動式の災害用簡易トイレや、ダンボールベッド、プライバシー確保のためのパーテーションなどが用意された。

避難者役は、それぞれに異なる状況が書かれたビブスを着用。直接避難所を訪れる健康な人だけでなく、一般避難所からの移動で遅れて来所する人、高齢者、妊婦、視覚・聴覚障害者、介助犬の同伴人、透析の必要な患者など、割り当てられた自身の状況を想像し、“その人になりきって”避難所を訪問した。避難所では、施設運営者側の対応を観察し、改善点・感想、マニュアルの修正点などを各自でメモした。

訓練は計2回実施。参加者は1回目と2回目で役割を入れ替え、「施設運営者役」と「避難者役」の両方を経験した。1回目の訓練では、避難所開設作業に取り掛かろうとした矢先に避難者が来所し、受付の設置・対応が後手に回ったほか、トイレ設置の遅れ、準備しておいた用具の使用忘れなど、混乱の様子が各所で見られた。避難所開設完了までの時間は約30分を要した。

こうした経験から、2回目の訓練では、開設作業も避難者対応もスムーズになり、開設完了までの時間は約15分に短縮された。
各回の訓練後には、参加者全員でそれぞれの班の感想や観察結果を共有。スピード感や危機感の不足、個別性に配慮した対応の必要性、役割の明確化、番号割り当てなどによる管理向上といった課題が挙げられる一方、訓練を体験したことで得られた気づきや手応えもそれぞれ口にした。

指導にあたった福祉防災コミュニティ協会の鍵屋一代表理事(福祉防災上級コーチ)は、訓練後の総括として、2回目の訓練で改善された多くの点を評価しつつ、「ヌケ、モレ、オチはどんな優秀な人でもある。手順書を見て、順番にやっていけば不安感も消せる」、「1回訓練をやると非常にスムーズになる。皆さんの施設でも同じレベルで訓練をやっていただければ」と述べ、マニュアルに基づいて訓練を実施することの大切さを強調した。

市原市総務部危機管理課の大関一彦課長は「令和元年の災害を受けて、行政と福祉施設の関係を深めたいと考え、予算を確保して2回のマニュアル作成と今回の訓練を実施した。実施してみて良かったと思っている。今後も皆さんと顔の見える関係を築いていきたい」と手応えを語った。
訓練参加者は今後、訓練での気づきを踏まえ、各施設で作成中のマニュアルをブラッシュアップ。市からの助言を得ながら、いざという時に役立つ備えとなるよう改善していく。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方