2018/04/09
安心、それが最大の敵だ

改革を進める開明的藩主
「海闊(ひろ)く天高し其(そ)れ器宇」
幕末の老中・佐倉藩主堀田正睦の書である。世界の大勢に通じ西洋文明の導入を説いた正睦の気迫がうかがえる。江戸幕府親藩・佐倉藩の領主であった堀田家は最初の領主になった正信系を「前の堀田」と呼び、江戸中期以降の正俊系を「後の堀田」と呼んだ。正睦は「後の堀田」系である。正睦は文化7年(1810)に生まれた。父は、正俊から数えて7代目の藩主正時である。正睦は16歳で藩主になった。藩内には、佐倉藩親戚筋の下野国(現栃木県)佐野藩主正敦の子を推す意見もあった。正睦の賢明さを知る上級藩士らは若い藩主を歓迎し藩内にしこりは残らなかった。
江戸時代も後期に入ると、各藩とも財政に苦しむようになった。佐倉藩も例外ではなかった。窮乏にあえぐ藩士の中には武芸を怠り、風紀の乱れた生活を送る者も出てきた。一方、藩の財政を握る上級藩士の中にはぜいたくな暮らしをする者もいて、藩内の秩序は乱れていた。正睦は藩政立て直しに立ち上がり、佐倉藩独自の天保改革を実施した。この改革は倹約一辺倒ではなく、学問・武術を高めることも目的としていた。庶民の生活の苦しさをしのぐため藩から一時金の貸し出しを行った。その一方で、学問・武芸を修めなかった者が家を継ぐ時には家禄を割り引くという厳しい措置をとった。その結果、武士たちは文武に励むようになった。
正睦は改革の一環として高等教育充実させた。佐倉藩藩校は寛政4年(1792)の「佐倉学問所」に始まる。その後「温故堂」と改称された。儒教中心の小規模なものにすぎなかった。正睦は兵学・医学・洋学(蘭学・英学)をはじめ様々な武芸を学べる先進的学校として「成徳書院」を天保6年(1835)開校した。成徳書院の充実により佐倉は「南関東の学都」と呼ばれるようになった。江戸の著名な蘭学医・佐藤泰然は正睦の招きで佐倉に移り、医学教授とともに病院を開いた。佐倉順天堂の始まりである。特筆すべき医学上の成果として、天然痘で亡くなる患者を救う種痘の実施がある。近代的な予防医学の先駆けである。
貧しい農家で生まれた子を間引して人手を減らさせてはならないと、正睦自らが書いて農村に示した「子育教諭直書(こそだてきょうゆじきしょ)」には、貧困にあえいでも嬰児を殺すことは神や仏が深く憎むことであり、天罰を受けることは必定であると諭した。人口を増やす政策の一環として「陰徳講」という制度を作り、藩や裕福層の者が子育てのための補助金を出すようにさせた。正睦は、学問を愛し、西洋文化を積極的に取り入れる藩主であった。鎖国の幕末にあっては数少ない開明的名君である。
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