被災状況が一目でわかる

地震、津波、風水害、噴火など災害時に国土交通省が集めた情報を地図上に集約して表示する統合災害情報システム(DiMAPS)の運用が9月1日から始まった。鬼怒川や渋井川の決壊を引き起こした9月の関東・東北豪雨の際にもDiMAPSで集約した情報がウブ上で一般公開された。震度分布や津波情報、通行止めなどの道路情報、鉄道やフェリーの運行状況、土砂災害、河川の被害情報、ヘリによる空撮画像など国交省が集める多くの情報を一元的に地図上に示せるのがこのシステムの最大の特長だ。

東日本大震災でホンダから自動車通行データの提供を受けたGoogleが地図上に「いま通れる道」を表示した活動が発端となり、災害時にGIS(地理情報システム)を使った情報共有は瞬く間に広がった。その後も、時間経過とともに変わるニーズに合わせて、避難所や医療機関、スーパーやガソリンスタンドなどの情報を地図上にプロットする取り組みが活発に行われた。それでも、リアルタイムに掲載される情報は限られ、被害状況の一元的な管理には今なお課題が残る。 

こうした中、国土交通省は、これまで文字で公開してきた災害時の被害情報を位置情報と紐付けて地図上に可視化する統合災害情報システム「DiMAPS」を9月に一般公開した。誰でもどこからでも国交省の集約した地図情報にアクセスすることができる。4月から内部での試行運用を開始し、アップデートを重ねてきた。上空のヘリが撮影した被災地の画像もリアルタイムに地図上に表示されていく。さまざまな情報を「見える化」したことで、より早い状況把握が可能になったという。同省水管理・国土保全局防災課災害対策室地震防災係長の飯島直己氏は「国交省では、災害時の情報集約は本省内の各局や地方整備局、気象庁、海上保安庁などから集めた情報を被害報という文章でまとめ、そこから地図にプロットする方法をとっていました。しかし、東日本大震災では、道路、河川、港湾、空港など広範囲で同時多発的に被害が発生しました。当時は防災センターにいた国土地理院の職員が手作業でプロットしましたが、リアルタイムかつスピーディには対応できませんでした。その苦い経験がこのシステム開発の出発点です」と語る。


被害報を地図に示した
地図上に表示される情報は、基本的には国交省が紙で発表している被害報のうち、位置情報を伴うもの。具体的には、地震なら震度、震源、津波警報、津波注意報など気象庁発表の情報と、同省が管理する河川、道路、鉄道、海事、港湾、航空、物流などに関する被害状況だ。 

地震が発生すると、まず地震速報と津波警報が自動的に取り込まれ表示される。地図上に示される震度は気象庁が発表する「震度速報」「震源・震度に関する情報」をもとに地図上にプロットされる。 

被害報の他に、新たに加わった情報は、ヘリからの空撮画像だ。撮影した被災地の画像を地図上で即座に確認できるようになった。国交省はヘリを8台所有しており、そのうち2台が撮影した映像を衛星通信でリアルタイムに転送できるヘリサットシステムを搭載している。このヘリサットを搭載したヘリが隙間のないように被災地の上空で旋回を繰り返し往復して撮影し、集めた映像をつなぎ合わせた画像がDiMAPSで見られる。映像情報にGPSやカメラの角度情報、ヘリ姿勢情報なども加えたデータを送信し、自動的に広範囲の被災画像が組み上がる。「このようにヘリからの空中撮影写真をリアルタイムで地図化し、一般に公開する試みは世界初ではないでしょうか」と飯島氏は胸を張る。

9月の集中豪雨で鬼怒川が決壊して浸水した常総市の面積は最大で約40㎢だったと発表があったが、この計算にもヘリサットの映像が一部利用されている。ヘリサットが取得した画像をDiMAPS上で時間軸に沿って表示させると、常総市の浸水エリアが鬼怒川決壊で拡大してから、排水によって縮小していく様子が分かる。ヘリサット画像だけでなく通行止めなどの道路情報、土砂災害なども同様に時間軸に合わせて表示させることで被害の変化も確かめられる。「誰もが被害の全体像を把握しやすくなりました」と飯島氏は語る。 

さらに、河川などに設置している監視カメラの映像も地図上に表示されたカメラマークをクリックするだけでウェブ上で見ることができる(一般への公開はしていない)。鬼怒川決壊も、国交省では、監視カメラから状況を確認し、直ちに全国からの支援体制を整えた。現地の職員が撮影した写真なども、そのまま地図上に表示することが可能だ。 

DiMAPSを導入し国交省のオペレーションは大幅に早まったという。「従来は地震が起きると15分で参集して、監視カメラにより被害状況を確認するのに10数分かかっていました。このシステムは地震計が置かれた場所の震度がすぐわかり、被害が大きそうな地点を絞り込み重点的に確認できるようになりました。被害情報の把握が確実にスピードアップしたおかげで対策の検討開始も早まりました」と飯島氏は説明する。 

集約されるのは被害情報だけではない。これまではそれぞれのウェブサイトにばらばらに表示されていた浸水想定地域や土砂災害危険個所などハザードマップなどの情報も併せて表示できる。

一般公開されているウェブ地図
国交省では、同システムを自治体や民間で被害情報の確認などにも役立ててもらうために一般公開している。公開されている情報には、震度分布や津波情報、土砂災害情報、道路情報、鉄道情報など多くの重要な情報が網羅されている。 

国交省のホームページの右側にある「DiMAPS」のバナーをクリックするとスタート画面にとぶことができる。
http://www.mlit.go.jp/saigai/dimaps/

使い方解説
ここでDiMAPSの使い方を簡単に説明する。まず、トップ画面(http://www.mlit.go.jp/saigai/dimaps/)の上部にある「被害情報を見る」に目を向ける。その最上段に現在進行形の災害が表示される。11月4日現在では「台風23号による最新の被害状況(10月9日14:00現在)」が表示されている。


9月の集中豪雨について見てみよう。「被害情報を見る」の少し下に「これまでの災害情報」があるので、ここをクリック。すると東京を中心とした地図が出てくる。このままでは被害情報は見られない。マップを北関東が表示されるように動かし、少しズームアウトさせる。そして、マップの上方にある「被害情報」をクリックする。すると右側にフォルダが表示される。「H27災害情報」というフォルダを選ぶと11月4日現在では「151002急速に発達する低気圧に伴う暴風等に係る被害状況」「150930台風21号による大雨等に係る被害状況」などが並んでいる。「150909平成27年9月関東東北豪雨等に係る被害状況等について」をクリックすると「第28被害報」「過去被害情報」「ヘリサット」「地方整備局等による登録情報」「国土地理院による登録情報」と並ぶフォルダが開く。ヘリサットからの画像を見るなら、ヘリサットのフォルダを開いて撮影日時の項目をクリック。個別の被害情報を見るには、「第〇〇被害報」のフォルダを開き、見たい項目をクリックすればいい。

UTMグリッドにも対応
DiMAPSは地図座標にUTMと緯度・経度を採用している。常総市のように濁流が流れ込んだ地域では目印となる建物や電柱が倒壊または水没し、住居表示の地図を持ち歩いても位置の確認が難しい。UTMグリッド座標や緯度・経度座標が分かれば、位置の特定は容易になる。 

DiMAPSに集約された情報は、民間企業などでも各用途に応じて活用することができる。 

「ここに出ている情報はオープンデータで二次利用、再頒布はもちろん商用利用も可能です。ヘリサットの画像も自由にご利用いただけます」と国土地理院・防災企画調整官の長谷川裕之氏は話す。 

国交省では、今後も運用しながらDiMAPSの改善を進めていく意向だ。現地点ではあくまで国交省が管理するインフラ設備関係の被害情報を表示させるのが基本だが、他の省庁、自治体との連携によっては、「停電情報」「水道・ガスの供給状況」などの情報を共有することも可能となる。 

飯島氏は「新しいシステムとはいえ、ベースになる情報は現場職員が集めています。汗水を流して情報収集に奔走する職員がいてはじめて、災害対策が成り立っています。こうした情報をより有効に使っていくことが大切」と話している。