葛飾区のシンボル、柴又帝釈天(Photo AC)

東京都23区内の各自治体は、災害への対策に対して各地域に即した体制で過去の経験を活かしながら取り組まれています。地形、災害経験などハード・ソフト面の特性は1つとして同じ地域はありません。それぞれの地域で予測されていること、予防計画、また、今後の取り組みなど現在の状況を各行政区の方々、地域で防災に関する活動をされている方々に話を聞き、お伝えしていきます。ご自身が住んでいるまちのことはもちろん、隣町や連携する可能性があるまちのことを改めて知っていただける機会となれば嬉しいです。第1回は、4月から自治体では珍しい「自助・共助係」「訓練係」を新設した葛飾区の取り組みをご紹介します!

葛飾区は、人口46万423人(2018年1月1日現在)、川と緑に囲まれた地域で、下町の人情味豊かな区民が暮らす中小企業の多いまちという地域特性があります。

しかし、普段は穏やかな町並みの葛飾も災害時に注意しなければならないことが想定されています。

東京湾北部地震(M7.3)の発生による被害は、2014年の東京都が発表した資料によると、都内の死者想定数が約9700人、建物被害約30万4300棟。そのなかで葛飾区は死者500人、揺れ・液状化による建物の全壊7446棟と想定されています。

住宅と工場等が混在する市街地地域もあり、狭あい道路や老朽木造建築物が密集し、重点整備地域に指定された地区もあります。

重点整備地域:防災都市づくりに資する事業を重層的かつ集中的に実施する地域として木造住宅密集地域の改善を一段と加速するため特に改善を必要としている地区について従来よりも踏み込んだ取組を行う「不燃化特区」の区域が指定されている。(東京都防災都市づくり推進計画(改定)2016年3月より)


さらに、川に囲まれた地域であるため水害への対策も必須で、川の氾濫や台風により川の水が街中に溢れる外水氾濫、大雨などによってマンホールや排水溝などから雨水があふれて街中が浸水する内水氾濫の被害が想定されています。

計画規模(約200年に1度)の大雨による洪水浸水想定区域は、荒川の氾濫で27.22㎢(78.1%:区内面積に対する割合【以下、同】)、2m以上の浸水区域は15.14㎢(43.4%)江戸川の氾濫では、26.30㎢(75.5%)、2m以上の浸水区域は5.26㎢(15.1%)中川・綾瀬川の氾濫で17.15㎢(49.2%)、2m以上の浸水区域は1.44㎢(4.1%)と想定されています。平時は、美しい景観そして癒しを提供してくれる川。自然と共に生きるためにも予防対策に力を入れている行政の方、住民の方の声をお届けできればと思います。

葛飾区における防災への取り組みを葛飾区地域振興部危機管理課課長の長谷川豊さん、元地域防災課課長・現葛西消防署副署長の椎名 理(おさむ)さんにお話を伺いました。

区役所内に「自助・共助係」「訓練係」を新設!

葛飾区地域振興部危機管理課課長の長谷川豊さん

「今年4月からの組織編成で地域防災担当課『自助・共助係』と『訓練係』という組織を新設しました。町会で使う資機材や助成金などの窓口が、『自助・共助係』。町内で実施する訓練に関する窓口は、『訓練係』となります。『自助・共助係』という組織名は画期的だと思っています。

行政もできることは精一杯するが『できないものはできない』ときちんと伝えることが大切であると考えています。この組織名を宣言することで、『行政側も事前準備でできる限りのことはしっかりとします』という宣言を同時に行っています」(長谷川さん)。

災害が発生した時にその被害を軽減するために取る対応には、国や地方公共団体による「公助」、地域の住民やボランティア、企業などの連携による「共助」、自ら身を守る「自助」があります。

2017年11月に行われた「防災に関する世論調査」より、災害が起こったときに取るべき対応として、考えに最も近いものはどれか聞いたところ、「『自助』に重点をおくべき」と答えた者の割合が39.8%、「『共助』に重点をおくべき」との回答が24.5%、「『公助』に重点をおくべき」との回答が6.2%、「『自助』、『共助』、『公助』のバランスをとるべき」との回答が28.8%となっており、バランスを取りながら防災施策を各まちで進める上でも、行政側から「自助・共助」の大切さを発信することは非常に大切です。

しかし、頼られがちである行政側から宣言することは、勇気のいることだと思います。公助で事前に整えられることは、1つひとつ整え、有事の際、行政職員が動けないこともある時に大切になるのが「自助と共助」であるということをしっかりとメッセージとして伝える組織編成になっています。

どんな状況であっても助けたい想いは非常に強いが、有事の際、どうにもならないこともある。その時に「今はできない」と伝えられるかどうかは、住民の主体性を平時から構築できているかどうかだと思います。それぞれの役割でできる限りのことを果たしていくことは予防計画を立てる上で重要なポイントだと改めて感じさせられました。

自助・共助で乗り越えるために、助成や訓練支援を積極的に実施!

東京消防庁から派遣された元地域防災課課長・現葛西消防署副署長の椎名 理さん

「事前にできる自助の対策として、感震ブレーカーの設置における補助金制度や家具転倒防止器具取付け支援事業を推進しています。

■感震ブレーカー設置助成(葛飾区)
http://www.city.katsushika.lg.jp/kurashi/1000063/1004029/1013763.html

■家具転倒防止器具取付け支援事業(葛飾区)
http://www.city.katsushika.lg.jp/kurashi/1000063/1004029/1004748.html

また、狭い場所や消火栓のない場所でも防災訓練が実施できる『まちかど防災訓練車(愛称:ちぃ防)』、災害時に陸上だけでなく水上を走行できる『水陸両用車(愛称:すぃ防)』を区内の防災訓練に派遣しています。若い世代にできるだけ多く訓練に参加してほしいという想いから生まれました。子どもたちも赤くて小さい車のことは好きになってくれるのではないか、そして訓練にも気軽に参加してくれるのではないかと考えて、災害対策車に愛称も付けて、まちに頻繁に登場するようにしています」(椎名さん)。

2018年2月に行われた葛飾区役所で水陸両用車(愛称「すぃ防」:左)とまちかど防災訓練車(愛称「ちぃ防」:右)の運用開始式の様子。地元の子どもたちも興味津々(提供:葛飾区)

■まちかど防災訓練車・水陸両用車の運行(葛飾区)
http://www.city.katsushika.lg.jp/kurashi/1000063/1004035/1016946.html

「災害時に支援に来てくれる方々の受援体制も整えています。どのような職能の方に何名来てほしいか、区役所内の各組織に必要事項の洗い出しを要請し、具体的に計画を整えています」(長谷川さん)。

もう1つの防災の取り組みとして、阪神淡路大震災以降開始された「東四つ木地区密集住宅市街地整備促進事業(密集事業)」があります。道路新設や道路拡幅により、消防車などの緊急車両が通れる幅員6メートルの道路を整備するほか、公園やポケットパークなどを整備し防災性の向上や住環境を改善する目的で、葛飾区都市整備部街づくり推進課密集地域整備担当係の方々が進めています。

「概ね達成度としましては9割くらい。整備前の写真と見比べながらまちを歩いてもらうと違いが一目瞭然です」と話してくださったのは、葛飾区都市整備部街づくり推進課密集地域整備担当係長の仲川聡さんと、同じく係長の藤岡隆さん。多くの地権者の方々と丁寧に会話をし、葛飾の安全のために事業を進めてこられました。

四つ木1丁目6番付近の整備前と整備後の風景(提供:葛飾区)
四つ木1丁目10番付近の整備前と整備後の風景(提供:葛飾区)

川に囲まれる葛飾区。ハザードマップの改訂も推進中!

「200年に一度起こりうる豪雨に備えて、ハザードマップを作っていました。しかし、法律が改正(※)し、1000年に一度発生する豪雨に備えてのハザードマップに改訂中です。マップを作成して終わりではなく、活用し、対策を立ててもらえるように住民の方とも会話をするようにしています。」(長谷川さん)その話し合いの場の一つが、今年の3月30日で第10回目を迎えた「輪中会議」です。

(※)2015年7月に水防法が改正。洪水浸水想定区域図は、計画規模(約200年に1度)の大雨だけでなく、想定最大規模(約1000年に1度)の大雨による洪水も想定して、作成されることになった。

次回は、「輪中会議」も含め、地域の方の取り組みについて伺った内容をお伝えします。

(了)