国内の製造業で品質不正や検査データの改ざんが発覚する事例があとを絶ちません。なぜ不正が起きるのか、どう対処していけばいいのか、事例などを踏まえて考察します。

■事例 相次ぐ品質不正

日本を代表する電機メーカーであるA電機で、昨年、複数の事業所で立て続けに品質不正問題が発覚しました。

まず、2021年4月に、B工場で製造された電磁開閉器の一部機種の部品について、米国の認証機関に登録したモノとは異なる樹脂材料が使用された事実が判明しました。同製品は2013年から2021年4月まで販売されていました。また、6月にはC製作所で製造されていた鉄道車両用空調装置が、顧客と合意した試験の一部が実施されないまま納品されていた事実が発覚しました。これらは1985年頃から行われており、検査成績書に架空の数値を記載して捏造するなどの不正が行われていました。C製作所では他にも合計12件の品質不正が発見されました。

一連の問題を受け、A電機では調査委員会の設置を決定しました。また、7月には当時の社長が「外部の弁護士などを含む調査委員会の活動を新たな経営トップの下で実施できるようにするため」として社長を辞任する方針を明らかにしました。その後もA電機では、新たに5つの製作所において29件の品質不正があったことを昨年12月に公表したのでした。

以前にA電機は、2018年12月に子会社のD社で発覚した不適切検査を受けて、グループの国内全事業所と子会社を対象にした「品質保証体制の再点検(全社再点検)」を実施し2019年8月に公表していました。それまでの調査で、A電機製エレベーターの一部製品で国土交通大臣認定に不適合な仕様だったことや、子会社のE工業で不適合品の出荷があったことなどは判明していましたが、今回起こった一連の品質に関する不適切行為は一切報告されていなかったのです。

■解説 不正の背景にある組織風土

A電機の品質不正問題の発覚後に設置された調査委員会における「調査報告書」の第一報が、昨年の10月に公表されました。この報告書の「原因背景等」内に、以下の記述があります。

「品質不正事案の原因背景を語るとき、半ば定型的に指摘されるのは、収益や生産・出荷を優先する企業や現場の姿勢、あるいはこれらのプレッシャーである。(中略)しかし、そもそも企業や開発・製造の現場が収益や生産・出荷を優先するのは、企業体である以上当然のことである。また、企業や現場が収益や生産・出荷のプレッシャーにさらされているのも至極当たり前のことである。問題の本質は、収益や生産・出荷を優先する姿勢や、これらのプレッシャーにさらされていることではない。そうした姿勢やプレッシャーがあっても、他の企業や現場は品質不正を行わないのに、なぜ、この企業や現場が品質不正を行うことになったのか。である。」

そして、「直接的な原因」として以下の4つが挙げられています。
(1)規定された手続により「品質」を証明する姿勢の欠如と、「品質に実質的に問題が無ければよい」という正当化
(2)品質部門の脆弱性
(3)ミドルマネジメント(主に課長クラス)の脆弱性
(4)本部と現場との距離・断絶

さらに「真因分析」として、A電機の組織論、風土論について以下の言及があります。

●拠点単位の組織構造
事業本部をまたぐ人事異動がまれで、部長級以上にならないと、最初に配属になった製作所・工場から出ることがほぼ無い、また課長になるまで担当する製品も変わらない
~製作所・工場あって、会社無し~

事業本部制について(独立性が強すぎる点)
  日々の業務遂行に会社は登場せず、問題解決も基本的には事業本部で図られ、現場にとって会社の存在感が小さい
~事業本部が異なると、別の会社のよう~

●経営陣の本気度
経営陣は「品質コンプライアンス」を声高に叫んでいたが、現場がこの声に呼応するための環境を整えていたと言えるか?「本気度」がどの程度伝わっていたか?
~「会社が問題解決の支援をしてくれる」という実感を現場が持てていない~

そして、調査委員会では改革に向けた提言を行いました。これを受け、A電機では品質不正の再発防止策を含む「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革の取り組みを進めていく、と発表したのでした。