2018/07/02
防災・危機管理ニュース
有限責任監査法人トーマツは6月28日、「グローバルビジネスリスク記者勉強会」を開催。デロイト トーマツ 企業リスク研究所主席研究員の茂木寿氏が、今年6月時点で日本企業に影響を及ぼすグローバルリスクとして、中国政府の環境規制強化など4つの話題について解説した。
■中国政府が環境規制を強化
中国では環境関連の規制強化が急速に進み、日系企業が制裁金や操業停止命令を受けるケースが相次いでいる。かつて中国は日本国内と比べて環境規制が緩いイメージがあり、環境規制適用コストが少なくて済む傾向があった。だが法制度自体は以前から日本と同等の規制があり、近年になって政府が取締強化の方針を打ち出し、制裁金や操業停止の命令が相次いでいる。
日本貿易振興機構(JETRO)の調査によれば、中国当局の環境処罰状況は、差押件数で2015年に3697件だったものが2017年は1月~11月までに1万8332件と3年間で4.96倍に増加。生産制限停止件数も2017年は1月~11月まで8756件と、2015年の2512件と比べ3.49倍に増加しているという。(https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/e81c33696a92daca.html)
日系印刷大手企業も、包装材の製造工場が大気汚染の規制違反に問われ、日本円で約数千万円の制裁金と一部操業停止を受けた。茂木氏は「自社はもちろん取引先企業が環境規制対策をきちんと実行していることを改めて確認するとともに、万一操業停止となった場合の代替拠点も押さえておく必要がある」とした。
■米政府が自動車関税の引き上げ検討
トランプ政権は5月23日、安全保障を理由に米国内に輸入される自動車に課される関税を現在の2.5%から最大25%に引き上げる検討に入った。日本の自動車メーカーは輸出全体の4割を米国に輸出しており、引き上げが実施されれば日本経済への影響は大きい。
茂木氏は、追加関税実施に備えて十分な影響評価と対策立案、生産計画の見直しを検討するよう促すとともに、「トランプ政権は11月の中間選挙をにらみ自国優先主義の傾向を強めており、周囲を驚かせる発言でも、その後政策として実現されているものが多い。思わぬ分野に影響が及ぶ可能性があり注意が必要」とした。
■ブラジル ストで物流停止 国内経済に打撃
ブラジルの大手石油会社が昨年7月に国際原油相場にあわせて燃料価格を変動させる制度を導入したことにより国内の燃料費が高騰。これに抗議するトラック運転手らのストライキに発展し、国内ではあらゆる流通が停止し、工業や農畜産業までブラジル国内経済に大きな打撃を与えている。
ブラジルに進出する海外企業はこれまでも、長距離道路などインフラ整備の未熟さ、税制の複雑さ、治安の問題など、いわゆる「ブラジルコスト」に頭を悩ませてきたという。茂木氏は「今回の問題は、燃料価格の高騰だけでなく、景気低迷、政治腐敗など様々な国民の不満が重なっている。今後どのような方向に発展していくか、現地に支社や取引先のある企業は、引き続き動向に注意してほしい」とした。
■サウジアラビア 資金調達困難で情勢不安
サウジアラビアでは、ムハンマド・ビン・サラマン皇太子のもと、近年インフラ事業など財政拡大しており、資金調達が急務となっている。このため国債としての借入以外に、国営石油会社の株式を海外で上場することを画策。ところが情報開示義務等の条件を満たせず、上場が難航している。資金調達に失敗すればサウジアラビアが財政危機に陥り、石油価格の変動に大きな影響を与える可能性があるという。
茂木氏は「サウジアラビアは皇太子のもと強硬な外交姿勢によりイランやカタールなどとの対立を鮮明にするなか、ロシアやアメリカなど大国の思惑も絡み、中東情勢は急速に不安定化している。日本企業は対岸の火事とみるのではなく、原油価格変動が自社事業に及ぼす影響リスクを分析しておくとともに、価格高騰による収益悪化が長引いた際の事業撤退基準などをあらかじめ明確にしておく必要がある」とした。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方