2022/09/18
過去最大級の勢力、台風14号襲来
アメリカに学ぶ政府主導の避難・対応体制
アメリカでも、災害対応は一義的には地元自治体の責務である。が、災害規模が大きく、地元自治体の対応資源だけでは不足する場合に、州が持つ対応資源を州知事が動員する体制が整っているという。さらに、国の脅威となるほどの大規模な災害が発生した場合、あるいは発生が予想される場合には、米国大統領が災害宣言を行い、大統領の災害宣言にもとづいて、連邦危機管理庁が実際の対応に従事する体制になっている。大統領の宣言により、災害による被害が起きる前でも、災害対応のギアの入れ替えが可能になる。以下は古い資料になるが、内閣府がまとめた「緊急事態における統合管理-中央政府と州政府の連携、被災者のニーズの確認と統一対応」からの抜粋である。
「災害対策が州単力では不可能だと判断された場合、州知事は予備的な被害評価に基づいて大統領に大災害非常事態宣言を発するよう要望できる。宣言が発せられると、大統領は直接連邦各機関に命令を下すことができる。各機関は大統領の命令の元に対策を実行するが、この宣言が発せられる前であっても、食料品や発電機など初期対応物資の運搬や国防総省の物資利用の申請を行うことは可能である。FEMA(連邦緊急事態管理庁)長官はFCO(連邦調整官)を州知事(州政府調整官)をそれぞれ任命し、両者は緊密に協力しながら現地での対応にあたり、対策終了後の費用分担について話し合いを行うこととされている」
過去のハリケーン対応でも、上陸の数日前に大統領宣言が出され、先手の対応が取られいる。このことは日本も学べる点ではいか。
憲法に緊急事態条項を取り入れるべきとの議論は行われているが、その合議を待っている時間もない。近年の災害は、異常気象により広域化・激甚化しており、少子高齢化や過疎化、財政難などにより職員が減少している自治体では、単体で対応できるようなレベルでなく、複数の自治体、あるいは都道府県が連携して対応に当たれる新たな枠組みが急務になっている。
政府は非常災害対策本部の事前設置を
こうした課題から日本にも防災省を設けるべきとの議論もあるが、当面の打開策としては、大規模な災害が見込まれる場合には、政府に非常災害対策本部を前倒しで設置することを提言したい。非常災害対策本部とは「非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに内閣府に臨時に設置する機関」のことだ。本部長は防災担当大臣で、非常災害対策本部の権限が及ぶ範囲は告示された区域に限られるが、災害応急対策の総合調整を行なうため、本部長は関係機関に対し必要な指示を行なうことができるようになる。また、非常災害対策本部に派遣された指定行政機関の職員に対し、指定行政機関の長はその権限の一部または全部を委任することができる。
現状では、非常災害対策本部の設置は、災害が「発生した」場合に限られているが、今回のように大きな被害が見込まれる状態なら、先手で設置することも検討してみてはどうか。さらに規模が大きな災害が実際に起きた場合には、内閣総理大臣を本部長とする「緊急災害対策本部」に格上げすることもできる。災害の規模に応じて、自治体主導から国主導へと対応の枠組みを切り替え、多大な被害が起きることを前提に、迅速な救助・救命、復旧体制を整えていくことも今後は考えていった方がいい。
(9月18日7時時点での状況をもとに執筆)
オピニオンの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方