「ヒト」に求められるBCP的素養とは?
第22回:従業員の「健康」をつくるというBCP活動

林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
2023/02/17
企業を変えるBCP
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
BCPを運営するには、役割を与えられた「ヒト」がマニュアルで求められた行動をする、健康な状態で活動する、という至極当たり前の前提があります。しかし、発災直後は多くの人が心理的パニックに陥るかもしれません。また、一見健康そうに見えても、腰痛や膝の痛みなど慢性的な疾病を抱えながら会社に出ている人もいるでしょう。
すると、いざ避難する、行動するとなった時、状況に対応できない人は思いのほか多いはずです。もちろん、ストレスがかかる状況は免疫力も落とします。ヒトが有事に際して正しく行動できるかはBCPにおいて非常に重要ですが、一方で、あまりスポットライトがあたってこなかったようにも思えます。
BCP活動の司令塔である対策本部事務局や対策本部のメンバーには、しっかりした規定やマニュアル、手順書があります。しかし従業員には、おうおうにして、地震が起きた際の注意点や連絡先などを記した”防災”カード、いつの間にかなくなっていても気が付かないくらいインパクトが薄いカードが配られているだけです。
リスクマネジメントの考え方において、組織として危機管理を行う対象は自然災害や感染症などの外的要因であったり、AI活用やIT化推進などの戦略的リスクであったりしますが、従業員個々のリスクについては企業があまり扱ってきませんでした。
労働生産性を最も落としている要因は、従業員の不調といわれます。子供の教育や高齢の親の介護など、それぞれの家庭事情も含めて、原則的に従業員の「健康状態」が企業の最大のリスク要因であることは間違いないでしょう。ホワイト企業の定義でも、ここにポイントが置かれています。
今までの大きな地震の際の人的被害の要因として、避難すべきタイミングで避難できなかったことが挙げられています。倒壊が予想された家屋から逃げられなかった、津波に対して逃げられなかった。東日本大震災では、常に津波の避難訓練をしていた子供たちが、避難することを訴えて、多くの大人が助けられたことは有名な話です。
アメリカの航空会社では「機内で酸素マスクが降りてきたら、まわりの人を助けるよりも前に、目の前にある酸素マスクをつけて下さい」と言われます。自助がなければ、人を助けることはできないことを意味していますが、危機的状況の中で、従業員にはまず「自助」を考えてもらうよう教育しておくべきです。
ここで言う「自助」とは、発災直後の話だけではなく、事前の準備、備えを含めた「自助」として、健康であることが最も大事なのだということを強調したいと思います。このことを踏まえ、それぞれの「ヒト」の対象ごとに、求められるBCP的素養について考えてみると、次のような整理ができます。
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