BCP事務局の担当者向けにシナリオを伏せて行う状況付与型模擬訓練の効果とは(イメージ:写真AC)

1.危機管理チームの悩み

筆者は危機管理コンサルタントとして、クライアント企業のBCPに関わる対応策と、それらを記述した危機管理規程、初動マニュアル、BCPマニュアル、BCP訓練計画書、IT-BCP計画書、各種手順書などのドキュメントを整備するお手伝いをしています。

またそれとは別に、BCPセミナーやBCP監査セミナーを不定期に開催しています。そこで参加者の方々から、必ずといっていいほど、次のような質問をいただきます。

「マニュアルを策定し訓練も行っているが、マニュアルが全て頭に入っているわけではないので、実際の本番で、マニュアル通りに動けるのか。手順の進行を含めて、不安な状況を打破するにはどうしたらよいか?」

「マニュアルはあるけれど、担当部門がマニュアルに沿った動きができるかどうか。またマニュアルにはなくとも、その場に応じた臨機応変な行動ができるかを、監査的に見定めるためにはどうすればよいか?」

2. BCP 訓練は個人のスキルをアップさせない?

ほとんどの企業の経営陣は、毎年行うBCP訓練を通して一連の手順をシミュレートすることで、対策本部事務局をはじめとした作業メンバーに対し、初動時やBCPフェーズ開始時の全体の流れをマニュアルに沿ってつかんでもらえるだろうと期待しているわけです。

一方でBCP 訓練の効果に対して担当者の不安が巻き起こるのは、部門としての行動は理解できても、担当者自身、危機担当スキルの不足と責任感というプレッシャーに苛まれているからだと想像されます。

あらかじめ作ったシナリオを読み合わせるだけでよいのかという不安(イメージ:写真AC)

確かにBCP訓練では、あらかじめつくったシナリオや訓練アクション、報告内容を読み合わせることが多いため、各組織として災害時の状況を想像したり、マニュアルの不足を感じたりすることはできても、担当者自身は個人の能力を強化する機会になっていないと感じるのでしょう。

3. モックディザスタ訓練の方法と効果

実は、この部分に焦点をあてた訓練があります。いわゆるモックディザスタ訓練と称されるもので、通常は災害時にある状況に置かれた際、どのように行動するかを各自が考え模擬的に体感するものが多いように思われます。

災害時の状況をその場で初めて付与され、自分で様子を想像し、どのような行動をとるかを考える(イメージ:写真AC)

例えば大企業では、かなり大勢(100人規模)が一つの会議室に集められ、ファシリテータからある災害状況を初見で伝えられて、直後、参加者自身がいわれた状況を想像し、かつどのような行動をするかを考え、その参加者の一部の発言に対してファシリテータがコメントすることで、全参加者がなんらかの気付きを得るような内容になることがあります。

これらは一般的に、従業員に対する危機管理の意識向上を図るために行われます。ただ、事務局である危機管理担当者が初動およびBCPフェーズでのモックディザスタ訓練をすることはまれです。

前述した危機管理担当者の不安を少しでも払拭させ、スキルアップさせるためには、少人数、例えば事務局担当者数名だけといった小規模なモックディザスタ訓練が効果的です。事務局担当者向けのモックディザスタ訓練の例として、発災直後、一般従業員と同じ行動をするところからスタートします。

初めて行うモックディザスタ訓練では、事務局メンバーは自分自身よりも組織的行動を優先するのだという頭になりがちなため、初動はとにかく「自助」だという基本行動の確認から行うべきでしょう。

次のページで訓練の手順を簡単にご説明します。