2023/06/11
事例から学ぶ

JX金属は、極めて薄い電気回路などに使われる圧延銅箔で8割の世界シェア、半導体回路の形成に使う金属薄膜材料では6割の世界シェアを持ち、非鉄金属業界をリードするグローバル企業だ。同社では2015年以降、トップの方針のもと、全社でリスクマネジメントに力を入れている。
JX金属
東京都
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.39(2023年6月号)に掲載したものです。
❶リスクの定義と区分を明確化
・各部門が抽出するリスクを「事業リスク」、グループの経営目標の達成を阻害するリスクを「経営リスク」として定義。事業リスクと経営リスクの中から、グループの経営に大きなインパクトを与え、全社横断的に対応すべきと判断したリスクを「重要リスク」としている。
❷リスク一覧で共通認識
・各組織から挙がってくる大量で多彩な事業リスクを整理し、「社会制度」「市場環境」「戦略判断」「企業基盤」「事業運営」の5項目、45小項目に分類。これが、各組織が事業リスクを考える際の土台にもなる。
❸ERMの成熟度を測定
・リスクマネジメントの専門家集団であるRIMS ( Risk and Insurance Management Society )が開発したRMM(Risk Maturity Model)を使って自分たちのERMの成熟度を測定している。
JX金属は、10数年ほど前からリスクマネジメントの活動、すなわちリスク把握調査とその対応のモニタリングを開始したが、それを継続的な取り組みとして定着させるまでには至らなかった。その状況を踏まえ、2015年にはリスクマネジメントの組織を設置するとともに、社長諮問機関としての会議体をスタートさせ、以降、改善を重ねつつ今日に至っている。
同社常務執行役員で総務部・法務部・人事部・環境安全部を管掌し総務部長を務める小松﨑寛氏は「当時、リスクマネジメントの範囲は、品質管理や安全衛生、環境保全などのオペレーショナルリスクが中心でした。リスクの抽出から対応までの運用は各部門に委ねていました」と振り返る。
2019年には、2040年を見据えた同社の長期ビジョンの策定にあわせて、それまでのリスクマネジメント活動を全社的リスクマネジメント(ERM)に進展させた。その背景について、総務部・リスクマネジメント室・リスクマネジメント担当課長の藤山昌志氏はこう説明する。
「いざリスクマネジメントを導入すると、リスクマネジメントを行うことが目的になってしまい、何のためにやるのか、本当に役立っているのかと疑問がわいてきました。2017年後半になるとCOSO ERMやISO31000 の広がりもあって、リスクマネジメントは各リスクの洗い出しと対策を中心とした個別の活動ではなく、経営戦略に生かす視点で運用するという考え方が普及してきました。我々もこの視点が必要だと思い、リスクマネジメントをERM にまで昇華させることになったのです」
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方