【寄稿】命を守れたかもしれない5時間
「川の防災情報」を活用せよ!

秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
2018/08/08
平成30年7月豪雨と大阪北部地震
秋月 雅史
1963年7月生まれ。1989年日本アイ・ビー・エム入社。IT業界で災害対策システム・無停止システムの構築、セキュリティ体制構築などの経験を積み、2011年から「想定外の起こらないBCP」を提唱。その概念を更に推し進めて、2013年からはCOPを活用した「危機管理の自動化」を提唱し、企業向けBCPコンサルティングを行っている。
激甚災害指定を受けた「平成30年7月豪雨」にて被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。
筆者は子供時代の10年間を倉敷市で過ごしました。真備地区から数キロしか離れていない鶴の浦という地域に住み、高梁川を毎日眺めて小学校に登校していました。そのため、今回の倉敷市真備町の洪水は、他人事には思えませんでした。
よく言われるように、岡山は自然災害が少ない土地です。しかしながらこのたびの豪雨で氾濫した小田川は、歴史的に小規模な氾濫を繰り返してきたことが記録に残っています。
氾濫の歴史がわかっていながら、なぜこれほどの犠牲者がでてしまったのか?と思うと残念でなりません。
先日、国土交通省に残っている小田川の水位変化のデータを見ていて、「もしかすると命を救う余裕が5時間ほどあったのではないか?」ということに気づきました。
この方法は、河川に氾濫危険が迫ったときの一般的な避難方法になると考えたので、本稿を書いた次第です。
倉敷市では、各水系で発生しうる災害リスクに対して、各種のハザードマップを発表しています。
■ハザードマップ(倉敷市防災危機管理室)
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/1870.htm
中でも河川氾濫が発生した真備町のハザードマップは、実際の水没エリアと比較すると、ほぼ予測が正しかったことが判明しました。
ご覧の通り、予測エリアと水没エリアがほぼ重なっています。そしてこのエリアは、ウィキペディアによれば、それほど遠くない過去に数回の河川氾濫が起こっています。
歴史の経験と正確極まりないハザードマップがあったにもかかわらず、死者61名(2018年7月25日現在)を出してしまったのです。
では、真備町の住人のみなさんが助かる方法はなかったのでしょうか?
方法はあります。私は、河川の氾濫危険が迫ったときに命を救える方法が、たったひとつだけあると考えています。
みなさまは国土交通省が運営している「川の防災情報」というホームページをごぞんじでしょうか?
トップページには左側に現在の降雨状況、右下には日本の模式図が表示され、地方ごとに彩色されています。それぞれの色は洪水予報のレベルを表しており、たとえば黒は河川氾濫が発生した地域があることを表しています。
個別の河川の状態も表示できます。
このような断面図で、水位の状況がわかりやすく表示されます。このスクリーンショットを撮ったときは、氾濫が発生してしばらく時間が経ち、水位が下がり始めたときのものです。
水位の変化は、グラフで見ると変化がよりわかりやすいです。
たとえば、今回の氾濫をもたらした小田川の水位変化は、実際はこのようでした。グラフは、7月6日24時を過ぎたあたりで氾濫危険水位を大きく超えて、このあたりで氾濫が始まったことを示しています。
このグラフは、データの欠測があったため飛び飛びになっています。そこで私は、欠測となっている値を前後の中間になるように推定したうえで、水位が急に上がりだした7月6日19時頃から氾濫が始めった同日夜半までをグラフ化してみました。
それが次の図です。この図には、気象庁が発表した洪水予報と、自治体である倉敷市が発表した避難情報もマッピングしてあります。この図を見ると、今回の氾濫に至った時間経緯がわかります。
自治体は河川の水位という「結果」を確認して避難情報を出します。そのため、今回のケースでも、倉敷市は「氾濫危険情報」を確認して、避難指示を発令しています。
このケースでは、不幸にして真備町北側地区に避難指示が発令されたのは、氾濫が確認されるわずか4分前でした
■「避難指示、決壊把握4分前 西日本豪雨で倉敷真備町」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018071001002377.html
この事実は、自治体の避難情報を待っていては、「逃げ切れない=命に危険が及ぶことがある」ということを示しています。では、氾濫危険は事前に察知できないのでしょうか?
このグラフの19時からの、線の傾きに注意してください。この場合ではほぼ直線のグラフになっており、「このまま降り続くと23時ぐらいに水位ははん濫危険水位を超えて5mになるかもしれない」という推測が可能です。
われわれ一般人が手にできる情報はこれだけです。つまり「川の防災情報」で水位変化のグラフを観察して、このままだとxx時頃に氾濫する可能性がある、と判断するしか方法はありません。
このグラフを見ると、5時間ほど避難できる余裕があったのではないか?と慚愧の念に囚われます(私自身、小田川の水位変化のグラフを見たのは、氾濫発生のニュースを知ってからでした)。
後に倉敷市長が「水位計があれば違った」という旨を発言していますが、なぜ国土交通省の情報を使わなかったのか。倉敷市の災害対策本部はどこから情報を入手していたのか。疑問を覚えます。
■小田川の支流、水位計なし 倉敷市長「あれば違った」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL7P5J3LL7PPTIL01G.html
以下、河川氾濫から命を守る方法を簡単にまとめます。
最後に、河川氾濫で亡くなる方が、日本でこれ以上増えないことを祈ります。
(了)
「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/
平成30年7月豪雨と大阪北部地震の他の記事
おすすめ記事
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方