石川・能登で震度7の地震(アフロ)

元日に能登半島を襲った大地震。被害の全貌は徐々に明らかになりつつあるものの、数日経った今も、被災地は繰り返し襲う余震や雨により被害は拡大しつつある。今回の地震は、企業が集積するような都市部で発生したわけではないが、閉じ込めや逃げ遅れが多数発生したことは、今後の災害対応を考える上でも検証すべき点である。

石川県能登地方で1月1日午後4時10分ごろに発生した最大震度7を観測する地震では、東日本大震災以来の大津波警報が発表され、午後8時半ごろ大津波警報は解除されたものの、津波注意報が解除されたのは約18時間後の翌日午前10時だった。その間、沿岸部や川沿いにいる人は高台などの安全な場所に避難することが呼びかけられたが、倒壊家屋などで逃げ遅れや生き埋めになっているとの情報も多数寄せられた。公設消防は消火活動に追われ、また、一帯の道路の多くが寸断されているため、自衛隊や緊急消防援助隊の救助には時間を要した。逃げ遅れたり、閉じ込められた人々を助けられるのは誰か―。

2014年11月22日に発生した「長野県神城断層地震」では、周辺の住民が倒壊した家屋にかけつけ、チェーンソーやジャッキを使って救出にあたったことが美談とされ「白馬の奇跡」と称された。その後もさまざまな災害現場で、救助の武勇伝はメディアで取り上げられてきた。が、津波の危険が迫る中、あるいは再び大きな揺れが発生する危険性が高い中で、徒手空拳で救助に当たることは二次災害を招きかねない。では、周辺住民は手をこまねいているしかないのか。もし、これが南海トラフ地震で、津波の浸水危険エリアにある企業で社員が建物内に閉じ込められている可能性があるとしたら―。

能登半島地震/倒壊したとみられるビル  地震で倒壊したとみられるビル(中央)=2日午前、石川県輪島市[時事通信チャーター機より]

訓練を通じて対応を考えておく

災害対応には正解が存在しないケースが往々にしてある。閉じ込められた人を助けられる可能性と、自らも被災する可能性を天秤にのせて、正しい判断をすることなど未来が読めない限り、できるはずがない。ただ1つ言えることは、そうした状況を一度も想定したことがない、訓練もしたことがない人が忽然とこのような状況で人を助けられるはずがない。だからこそ、平時からさまざまな想定のもと、訓練を徹底しておくことが求められるのだが、訓練をしてきたからといっても、勇猛果敢に現地に突っ込んで行くのでは軽慮浅謀と言われても仕方がない。まずは、自分ができることは何かを考える冷静さが求められる。

1つは情報を確かめること。そもそも逃げ遅れや閉じ込めの情報は正しいのか。いつ誰から寄せられた情報で、確認が取れているのか。仮に確実な情報だとしたら、その場所はどのような場所―地理的・物理的・環境的なリスクがあるのか。例えば、津波が来たらすぐに逃げられそうな場所なのか、かなり沿岸部に近いのか。周辺の道路はどのような状況なのか、建物の倒壊の危険性はないのか、その情報を行政などに連絡をしたか。

その上で、安全に救出できる可能性があるとしたら、自分たちのスキルについても冷静に考えてみる必要がある。一人が危険な現場にいって人を助けられるはずはない。少なくとも数人のスキルを積んだ人がチームをつくり、緊急時の安全確保の方法、避難方法、救助に要する時間などを決めた上で、行動を起こせるようにする必要がある。その際も、警報が出ていないか、タイミングとして適切な時間帯はいつか、装備として何を持っていくべきか、どう行政と連絡を取り合うか、周辺に危険が存在しないか、などチームとして役割を決めておくことが重要になる。

「そのような危険な状況なら、仲間が閉じ込められていたとしても、対応に当たれない。行政に頼むしかない」というのも1つの判断だろう。救助に無理に当たらせることは安全配慮義務にも抵触しかねない。

しかし、こうした状況が起きうるということだけは、我々は常に考え、できる限りの備えはしておく必要があるのではないか。