2024/01/02
令和6年能登半島地震

元日に能登半島を襲った大地震。被害の全貌は徐々に明らかになりつつあるものの、数日経った今も、被災地は繰り返し襲う余震や雨により被害は拡大しつつある。今回の地震は、企業が集積するような都市部で発生したわけではないが、閉じ込めや逃げ遅れが多数発生したことは、今後の災害対応を考える上でも検証すべき点である。
石川県能登地方で1月1日午後4時10分ごろに発生した最大震度7を観測する地震では、東日本大震災以来の大津波警報が発表され、午後8時半ごろ大津波警報は解除されたものの、津波注意報が解除されたのは約18時間後の翌日午前10時だった。その間、沿岸部や川沿いにいる人は高台などの安全な場所に避難することが呼びかけられたが、倒壊家屋などで逃げ遅れや生き埋めになっているとの情報も多数寄せられた。公設消防は消火活動に追われ、また、一帯の道路の多くが寸断されているため、自衛隊や緊急消防援助隊の救助には時間を要した。逃げ遅れたり、閉じ込められた人々を助けられるのは誰か―。
2014年11月22日に発生した「長野県神城断層地震」では、周辺の住民が倒壊した家屋にかけつけ、チェーンソーやジャッキを使って救出にあたったことが美談とされ「白馬の奇跡」と称された。その後もさまざまな災害現場で、救助の武勇伝はメディアで取り上げられてきた。が、津波の危険が迫る中、あるいは再び大きな揺れが発生する危険性が高い中で、徒手空拳で救助に当たることは二次災害を招きかねない。では、周辺住民は手をこまねいているしかないのか。もし、これが南海トラフ地震で、津波の浸水危険エリアにある企業で社員が建物内に閉じ込められている可能性があるとしたら―。

訓練を通じて対応を考えておく
災害対応には正解が存在しないケースが往々にしてある。閉じ込められた人を助けられる可能性と、自らも被災する可能性を天秤にのせて、正しい判断をすることなど未来が読めない限り、できるはずがない。ただ1つ言えることは、そうした状況を一度も想定したことがない、訓練もしたことがない人が忽然とこのような状況で人を助けられるはずがない。だからこそ、平時からさまざまな想定のもと、訓練を徹底しておくことが求められるのだが、訓練をしてきたからといっても、勇猛果敢に現地に突っ込んで行くのでは軽慮浅謀と言われても仕方がない。まずは、自分ができることは何かを考える冷静さが求められる。
1つは情報を確かめること。そもそも逃げ遅れや閉じ込めの情報は正しいのか。いつ誰から寄せられた情報で、確認が取れているのか。仮に確実な情報だとしたら、その場所はどのような場所―地理的・物理的・環境的なリスクがあるのか。例えば、津波が来たらすぐに逃げられそうな場所なのか、かなり沿岸部に近いのか。周辺の道路はどのような状況なのか、建物の倒壊の危険性はないのか、その情報を行政などに連絡をしたか。
その上で、安全に救出できる可能性があるとしたら、自分たちのスキルについても冷静に考えてみる必要がある。一人が危険な現場にいって人を助けられるはずはない。少なくとも数人のスキルを積んだ人がチームをつくり、緊急時の安全確保の方法、避難方法、救助に要する時間などを決めた上で、行動を起こせるようにする必要がある。その際も、警報が出ていないか、タイミングとして適切な時間帯はいつか、装備として何を持っていくべきか、どう行政と連絡を取り合うか、周辺に危険が存在しないか、などチームとして役割を決めておくことが重要になる。
「そのような危険な状況なら、仲間が閉じ込められていたとしても、対応に当たれない。行政に頼むしかない」というのも1つの判断だろう。救助に無理に当たらせることは安全配慮義務にも抵触しかねない。
しかし、こうした状況が起きうるということだけは、我々は常に考え、できる限りの備えはしておく必要があるのではないか。
オピニオンの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方