2013/08/06
防災・危機管理ニュース
RMFOCUS Vol.46より
*本記事は、2013年6月7日現在の情報に基づいて執筆したものです。
株式会社インターリスク総研 取締役 本田茂樹
1.はじめに
急激な少子高齢化の進行で、日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えつつあるとともに、国民のライフスタイルの変化により、その疾病構造が結核などの感染症から、糖尿病をはじめとする生活習慣病やがんに大きく変化している。実際、感染症については第二次世界大戦後、衛生環境の改善やワクチン・抗菌薬の開発によりその流行は大きく減少している。
しかし、その後2002年に発生したSARSや2009年から2010年に流行した豚由来の新型インフルエンザなど新たな感染症が現れ、我々の健康や社会・経済を脅かす事態も発生した。さらに今年、世界保健機関(WHO)は5月に開催された総会において、次の二つのウイルス、中国における鳥インフルエンザ(H7N9)そして新種のコロナ、ウイルス感染症である中東呼吸器症候群(MERS)世界的な大流行が、(パンデミック)を引き起こす可能性もあり得るとの警鐘を鳴らしている。
(1)鳥インフルエンザ(H7N9)
2013年3月31日に、中国政府が3人の患者発生を発表して以降、多くの発症事例が続いた。5月29日現在、132人の感染者と37人の死亡者が報告されており、現時点での致死率は約30%と高い。
今回の流行で最初の感染者が確認された上海市では、感染拡大を阻止するため4月2日に市内全域に警戒態勢を発動したが、新たな患者が20日間確認されず感染者が急増する可能性が低くなったとして、5月10日にその態勢を解除している。
中国における鳥インフルエンザ(H7N9)の流行は、落ち着きを見せているが、ウイルスが人への適応性を高めており、パンデミックを引き起こす可能性も懸念されており、日本政府は5月6日、鳥インフルエンザ(H7N9)を感染症法に基づく「指定感染症」に指定した。指定感染症となったことで、患者を指定の医療機関に入院させる隔離措置や、就業の制限が可能となった。
(2)中東呼吸器症候群(MERS)
新種のコロナウイルスによる感染症である「中東呼吸器症候群(MERS)」の感染例は2012年9月以降、中東および欧州で確認されているが、2013年5月29日現在、49人の感染者(うちサウジアラビアが37人)と27人の死者が報告されており、現時点での致死率は約60%と非常に高い。
2002年に発生したSARSもコロナウイルスの一種であり、中東呼吸器症候群とは、遠い親戚の関係にある。WHOの発表によると中東呼吸器症候群は、「感染者との濃厚な接触がある場合、人から人へ感染する可能性がある」という状況であるが、2002年のSARSの場合に、世界で8,000人以上が感染し、800人近くの死亡者が発生したことを考えると、今後も動向について注視する必要がある。
日本では、病原性の高い新型インフルエンザや同様の危険性がある新感染症が発生した場合に備え、2012年5月11日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」)が制定され、2013年4月13日に施行されている。特措法は、公布の日から1年を超えない範囲内に施行とされていたが、中国での鳥インフルエンザ(H7N9)の感染拡大の状況を踏まえ、前倒しで施行されたものである。
本稿では、施行された特措法、そして特措法に基づき2013年6月7日に改定された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(以下「行動計画」)、および今後改定される「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(以下「ガイドライン」)のポイントを述べるともに、企業として押さえておくべきことを概説する。
2.「特措法」
(1)「特措法」制定の背景
①高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の流行
新型インフルエンザは、これまで人間の間で流行を起こしたことのないインフルエンザウイルスが、トリやブタの世界から人の世界に入り新たに人から人に感染するようになったものである。ほとんどの人が新型ウイルスに対する免疫を確保していないため、世界的な大流行となり、大きな健康被害とそれに伴う社会的影響が発生すると考えられる。
特に2003年以降、東南アジアなどを中心に、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)が家禽類の間で流行し、このウイルスが人に感染し、死亡する例が多数報告されており(2013年4月26日付のWHO発表によると、これまで628人が感染し374人が死亡)このような高病原性、鳥インフルエンザ(H5N1)のウイルスが、たやすく人から人に感染する能力を獲得し、病原性の高い新型インフルエンザが発生することが懸念されていた。
②これまでの取り組み経緯
我が国では、特措法の制定以前から、高病原性鳥インフルエンザ由来の新型インフルエンザの流行に備え、2005年12月に行動計画を策定し、その後、科学的知見の蓄積を踏まえ数次にわたる改定を行ってきた。
2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行では、病原性の高い新型インフルエンザを想定した行動計画を、病原性の低い新型インフルエンザへの対策として実践したため混乱が発生し、また一時的に医療資源や物資の不足がみられるなど、実際の運用において課題や教訓が明らかとなった。これらを踏まえ2011年9月20日に行動計画が改定され、それが現在まで適用されている。
一方で、新型インフルエンザの流行、まん延に備えることの重要性は変わらないことから、行動計画の実効性をさらに高め、各種対策の法的根拠を明確にするための法的整備が求められることとなり、特措法が2012年5月11日に公布されるに至った。
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