予定調和と形式化に陥りがちな訓練をどう活性化するか(イメージ:写真AC)

BCPの計画と現実とのギャップを、多くの企業に共通の「あるある」として紹介、食い違いの原因と対処を考える本連載。現在は第2章「BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コスト」のなかに潜む「あるある」を論じています。今回は、多くの企業が抱える訓練の予定調和と形式化の問題について。どのように解決できるかを考えます。

第2章
BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コストの「あるある」

(5)BCPの実効性

③訓練のあり方
・訓練は盛大な朗読会(中京地区大手・製造業・事業部門)

担当者「この部屋で災害対策本部を立ち上げます」

「壁にいろいろ貼ってありますね」

担当者「ちょうど先週訓練をしたばかりなので。いつでも見返しができるように、次回の訓練までこのまま残します」

「これは何ですか?」

担当者「各部署と各製造ラインからの被害報告の内容です」

「読み上げるんですか?」

担当者「はい。そうです」

壁の一面にびっしり貼られている一枚を見ると、次のように書かれています。

「製造部製造〇課から報告いたします。人員に被害なし、〇〇装置は被害なし、△△装置は地震の揺れにより調整が必要で復旧までに□時間が必要です。以上、報告を終わります」

どの紙を見ても同じようにセリフ仕立ての被害報告になっていました。

わざわざ仕事を止めて会議室に集まり、事前に用意されたセリフを読み上げ「BCP発動」と高らかに宣言し、事前に用意された結果の報告が行われ、それをみんなで聞いて帰る。このイベントは、何のために行うのでしょうか。

事前に用意したシナリオを読み合わせるだけではもったいない(イメージ:写真AC)

時間に合わせて会議室に素早く集合する訓練か、大きな声でハキハキと報告をする訓練か、報告すべきリソース項目を反復して記憶しておく訓練か、「BCPを発動する」ことを脊椎反射的にちゅうちょなく言えるように慣れさせておく訓練か。この訓練を終えた後、どんな振り返りができるのでしょうか。これを繰り返すことで何が得られるのでしょうか。

時々刻々と状況が動き、少ない情報しかない(本当に被災しているところからは報告がない)状況の中、限られたリソースを駆使して(それさえ情報が届かない場合がある)、どのような判断を下すのか、誰がその判断を下すのか、知恵を絞ることに慣れていくこと、振り返りで出た課題に対策を講じること、「ああしておけばよかった」「こうしておくと便利」というアイデアを日常業務に組み込んでいくことが訓練であり、これを繰り返すことで危機に対応する力を磨いて高めていくことが必要だと考えます。