2018/08/29
防災・危機管理ニュース

慶応義塾大学で2012年から現在まで開講しており、中央大学でも2013年から16年まで開講していた人気講座の内容をまとめた書籍シリーズ「災害復興法学」の最新刊が、今年7月に発刊された。
著者の岡本正氏は1979年神奈川県生まれで、「災害復興法学」を提唱する気鋭の弁護士。慶応義塾大学法学部法律学科を卒業後、2003年に弁護士登録し法律事務所に勤務。2009年から2011年までの内閣府出向中に東日本大震災が起きた。大規模災害に遭った被災者はどんな課題に直面し、政策として何が求められているのか。全国から被災地に駆け付けた弁護士の無料相談記録をデータベース化することを思い立ち、日本弁護士連合会に提案。自ら同会災害対策本部嘱託室長に就き、約1年で4万件以上のデータを蓄積した。このデータをもとに日弁連がおこなった復興に向けた法的支援制度の提言をきっかけに、ローン減免制度や相続放棄の期間延長など、数々の制度改正が実現した。
2014年に発刊したシリーズ前作「災害復興法学」(慶應義塾大学出版会)では、東日本大震災後、無料法律相談を通じて集められた4万人を超える被災者の「声」を集約・分析し、被災地の真のリーガル・ニーズに基づいた立法・制度構築を提言してきた。
最新作は全3部構成。第1部では4万件以上の法律相談データをもとに、相談内容の地域分布や時系列変化などを詳細分析した「リーガル・ニーズ・マップ」を作成。この分析を通じて得た被災者のリーガル・ニーズの傾向を踏まえて開発した「防災を自分ごとにする研修プログラム」の取り組み事例を紹介する。
第2部では、被災者にとって切実な「住まい」「家族と生活」「地域と情報」という切り口で、典型的な相談事例パターンを例示し、それらを克服するプロセスを示すとともに、現行法制度の課題を浮き彫りにしている。津波犠牲者訴訟をはじめとした、自然災害と組織の安全配慮義務に関する多くの裁判例を分析している章は、企業の事業継続計画(BCP)の策定に大いに参考になる。
第3部では、さらに中長期の視点に立ち「陸前高田仮設住宅巡回活動」の分析結果をもとに、復興期にリーガル・ニーズを浮き彫りにする。また2016年4月の熊本地震、2014年8月の広島土砂災害の2災害についても同様の無料法律相談データを分析し、災害によるリーガル・ニーズの違いと普遍性についても検証する。どの章も、興味に合わせて読み進められる構成となっている。
西日本豪雨からもうすぐ2カ月。その後も記録的な大雨が相次いでいる。大規模災害の被災者はもちろん、被災者の相談に対処する弁護士など法律専門家、被災者支援にあたる行政担当者、企業の経営者・危機管理担当者まで、役立ててほしい。
■ 岡本正氏著「災害復興法学II」(慶應義塾大学出版会)
A5判/並製/352頁/価格3024円(税込)
http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766425369/
(了)
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