~2013年米国務省テロ年次報告書を参考に~

和田 大樹 (国際政治学者)
日本安全保障・危機管理学会主任研究員
オオコシセキュリティコンサルタンツ(OSC) アドバイザー

4月30日、米国の国務省は「2013年テロ年次報告書」を公表した。同報告書によると、2013年に発生したテロ事件は計9707件(前年より43%増)で、1万7800人以上が死亡(前年、約1万1000人)、3万2500人以上(前年、約2万1600人)が負傷したとされる。 またテロ事件が多く発生している国は、イラク、アフガニスタン、パキスタン、インド、フィリピン、タイ、イエメン、シリア、ソマリア、ナイジェリアなどとされる。米国務省は毎年このようなテロ年次報告書を発行しているが、2012年以降米国メリーランド大学のテロ研究機関:STARTが発表するテロ分析や情報をリソースにしている。以下は同報告書に掲載されている図表をもとに、2013年に発生したテロ事件について分析したものである。

図1:月ごとにおけるテロ事件数、犠牲者数、負傷者数、人質(誘拐)者数

テロ事件数

犠牲者数

負傷者数

人質(誘拐)者数

January

669

1022

2043

986

February

567

991

1840

118

March

639

1027

1881

145

April

804

1123

2533

148

May

924

1557

3448

172

June

685

1542

2326

313

July

898

1862

3151

176

August

842

1918

3683

126

September

761

2034

3296

199

October

934

1639

2702

199

November

1007

1448

2649

144

December

977

1728

3025

264

Total

9707

17891

32577

2990

・2013年の1カ月平均のテロ事件数は約809件で、犠牲者数が約1490人、負傷者数が約2715人となっている。また1回のテロ事件における犠牲者数は1.84人で、負傷者数が3.36人である。
・人質(誘拐)者数の欄で、1月だけが986人と飛び抜けて多い数字となっているが、これは日本人10名が犠牲となったアルジェリア南東部、イナメナスにおける人質事件が背景にある。この事件では日本人の他にも米国人、英国人、コロンビア人、フィリピン人など約40人が犠牲となり、全体で約800人が人質になったとされる。
・テロ事件数では、1月~2月あたりが他の月と比較して少なくなっているが、これはテロ事件が多いパキスタンとアフガニスタンとの国境、トライバルエリア(FATA)の冬の厳しさが影響しているのかも知れない。
 

図2:テロ事件数の多いトップ10か国

国家

事件数

犠牲者数

負傷者数

犠牲者数/1回の攻撃

負傷者数/1回の攻撃

Iraq

2495

6378

14956

2.56

5.99

Pakistan

1920

2315

4989

1.21

2.60

Afghanistan

1144

3111

3717

2.72

3.25

India

622

405

717

0.65

1.15

Philippines

450

279

413

0.62

0.92

Thailand

332

131

398

0.39

1.20

Nigeria

300

1817

457

6.06

1.52

Yemen

295

291

583

0.99

1.98

Syria

212

1074

1773

5.07

8.36

Somalia

197

408

485

2.07

2.46

・2013年にトップ10入りした国家は、2012年のそれと変わっていない。
・2012年と比較して、この10カ国中、9カ国でテロ事件数は増加した。2012年はパキスタンが1位であったが、2013年はイラクが1位となり、フィリピンやシリアもランクが上がった。特にイラクとシリアでテロ事件が増加した背景には、シリア内戦が激化し、その中で台頭したアルヌスラやイラクからシリアへ活動範囲を活発化させたISIL(イラクとレバントのイスラム国)の影響がある。ナイジェリアではテロ事件数が45%減少したが、全体としては31%増加した。
・2013年には93カ国でテロ事件が発生したが、全テロ事件数の57%、全犠牲者数の66%、全負傷者数の73%はイラクとパキスタン、アフガニスタンの3カ国で占められる。この傾向は2012年と変わらない。
・1回のテロ事件における平均犠牲者数は、シリアとナイジェリアで非常に高くなっており、暴力性の高いテロ事件が発生した。
・2013年も同様に、トップ10カ国の顔ぶれを観る限り、アルカイダ系のイスラム過激派の基盤があり、また活動する国家で多くのテロ事件が発生している。