2014/06/10
防災・危機管理ニュース
安全管理システム(Safety Management System)のポイント
インターリスクレポートより 災害リスク情報<第57号>
執筆 災害リスクマネジメント部
リスクエンジニアリンググループマネジャー・上席コンサルタント 吉村伸啓
1.はじめに
5月16日、内閣官房、総務省消防庁、経済産業省、厚生労働省の4者連名により「石油コンビナート等における災害防止対策の推進について」と題し、重大事故の発生防止に向けて事業者や業界団体、国や地方公共団体等の関係機関が取り組むべき事項等について報告書が取りまとめられ、関係業界団体及び都道府県に要請された。
これは、近年増加傾向にある石油コンビナート施設や危険物施設、高圧ガス施設等での事故に関してその背景を分析し、企業、事業所及び関連各機関でとるべき対策について考察するため、内閣官房が主導となり、総務省消防庁、経済産業省、厚生労働省が参加して今年2月に設置された「石油コンビナート等における災害対策検討関係省庁連絡会議」にて取りまとめられたものである。
しかし、報告書の中で触れられている災害の背景や取組むべき課題については石油コンビナート等の事業所に限らず、危険物を取り扱う他の多くの製造事業所でも参考になる事項が多く盛り込まれている。
本稿では、本報告書の内容から特に企業、事業所で今後講ずべき対策を中心に概説するとともに、その具体的な対策を組織内に定着させるための取り組み手法「安全管理システム(Safety Management System)」のポイントについて解説する。
2.報告書の内容
(1)最近の重大事故の原因・背景に関わる共通点
報告書では直近に発生した4件の重大事故に関し、その原因から以下の3点を共通する背景として挙げている(以下報告書概要から引用)。
①リスクアセスメントの内容・程度が不十分
非定常作業や緊急を想定してのリスクアセスメント、設備・運転方法の変更時のリスクアセスメントが不十分。
②人材育成、技術伝承が不十分
know-whyの不徹底による緊急時対応能力、多様な事故等を経験した人材の減少による危険を予知する能力(リスク感性)が低下。
③情報共有・伝達の不足や安全への取り組みの形骸化
過去の事故情報が十分共有されず、安全対策への反映が不十分。安全への取り組みが形骸化し、現場保安力が低下。
(2)事業者や業界団体が取り組む対策
報告書では事業者や業界団体が取り組む課題として以下を挙げている。
①事業者が取り組むべき事項
a)自主保安向上に向けた安全確保体制の整備と実施
b)人材育成の徹底
c)リスクアセスメントの徹底
d)社内外の知見の活用
②業界団体が取り組むべき事項
a)事故情報(教訓)・安全対策の共有(業界間の積極的な連携も図る)
b)教育訓練の支援
c)安全意識向上に向けた取り組み
上記の内容を具体的に取り組むべき課題をまとめると表1及び表2の通りとなる。
- keyword
- テロ・大規模事故
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方