2024/12/29
防災・危機管理ニュース
海上自衛隊の潜水艦修理を巡り、川崎重工業が架空取引で捻出した裏金を海自隊員への物品供与の資金にしていたことが、防衛省の特別防衛監察の中間報告で明らかになった。癒着は、自衛隊と防衛費増額の特需に沸く防衛産業大手の間でコンプライアンス(法令順守)が欠如している実態をうかがわせた。国民の負担で成り立っている防衛力整備への信頼を揺るがす事態とも言える。
社会保障費が抑制される中でも防衛費は12年連続で増額され、現行の防衛力整備計画には過去最大の総額43兆円が投じられる。岸田前政権が防衛力抜本的強化「元年」と位置付けた2023年度も、架空取引により数千万円単位の裏金が捻出されたとみられる。
防衛省が戦闘機や潜水艦、ミサイルなどの主要な装備品を一元的に取得する「中央調達」の23年度実績は前年度比約3倍の約5兆5700億円。中央調達の契約実績はトップが三菱重工業で同約4.6倍の1兆6803億円、2位の川重が同約2.3倍の3886億円と続く。
潜水艦を建造できる企業は川重と三菱重工に限られる。反撃能力(敵基地攻撃能力)に使用できる垂直発射装置の潜水艦搭載に向けた調査研究にも両社が参画する。自衛隊幹部は「装備品の特殊性から開発や整備ができる企業が限られ、現場で濃密な関係にもなりやすい」と話す。
そもそも大阪国税局の調査が入らなければ、潜水艦修理に絡む計約17億円の架空取引と、娯楽用品も含めた物品供与は発覚しなかった可能性が高い。
中間報告書は、架空取引の背景に、適正と認められる水準を超えた利益を上げ続ければ将来、契約金額を引き下げられるとの懸念があり、原材料費を積み増す目的があったと指摘。物品供与については、修理工事には潜水艦乗組員の立ち会いが必要で、良好な関係を維持したい川重側の意識を挙げており、現場での力関係もうかがえる。
川重が提供した物品は正式な備品ではないため、官品を示す表示はなく、中間報告書は「調達の不自然さが容易に判明する状況にありながら、長年にわたり潜水艦側から報告はなかった」と指摘。「潜水艦における物品管理はずさん極まるもので、架空取引を助長した側面があることは否定できない」と断じた。
防衛省は契約相手企業の原価計算システムの適正性やコンプライアンスの体制などを確認する「制度調査」を行っているが、潜水艦修理契約は人手不足もあり、調査対象として優先度は低かったという。防衛費が増額されても、契約のチェック体制強化は置き去りにされている実情も浮かぶ。
〔写真説明〕川崎重工業と海上自衛隊の潜水艦修理契約を巡る裏金問題など不祥事が相次ぐ防衛省=27日、東京都新宿区
〔写真説明〕川崎重工業が防衛省向けに建造中の潜水艦の進水式。「らいげい」と命名された=2023年10月17日(海自ホームページより)
(ニュース提供元:時事通信社)


防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方