2018/09/14
防災・危機管理ニュース

「そのボランティア活動は本当に有効性が検証されたものなのか?と思うことがよくあります。あらゆるものの判断基準が情緒的で、正面から議論できない雰囲気になっているんです」と指摘するのは、神奈川県川崎市在住の高田昭彦氏(54)。 東京都内の事務機器メーカー・富士ゼロックスに勤める高田氏が災害ボランティアを始めたのは2004年の新潟県中越地震の時。地震直前まで仕事で居住していた新潟県柏崎市が被災し、少しでも復旧に役立ちたいと思い活動を始めた。これをきっかけに現在まで14年間、さまざまな被災地で災害ボランティアに携わり、今でも月1~2回のペースで福島県内の旧避難指示区域に通う。ボランティア活動への参加者は東日本大震災以降、かなり増えてきたが、実際にボランティア活動を経験するなかで、いくつか課題も見えてきたという。
ボランティア活動の質低下
まず高田氏が危惧するのは、ボランティア活動全体の質が落ちていること。東日本大震災以降、災害ボランティアの活動が広まったことで、未経験者の割合が急激に増えたことが要因と考えられる。ボランティアの裾野が広がったことで、一部では経験者の数が増えて質が向上している反面、未経験者の数の方が圧倒的に多く、全体として活動の質が落ちてしまっているという。
例えば今回、平成30年7月豪雨で水没した家屋の「泥出し」。現場の作業では床下に流入した泥を掻き出す必要があるが、効率よく作業をするためには床材をバールで剥がしたりノコギリで切る必要がある。その際に、本来必要のない箇所まで誤って剥がしてしまったり、内装壁を汚泥などでよごしてしまう例も見受けられるという。
「作業全体の趣旨や流れが十分伝わっておらず、間違ったまま広まってしまうことも少なくない」と高田氏。「被災者は、家財が傷つけられてもボランティアの気持ちを考えれば感謝するしかない。こうした実態は被災地の外に届かず、改善が進まない」(同)。
ボランティア初心者の装備不足も問題となっている。これまでは「ボランティアが被災地で事故や病気になれば逆に迷惑を掛ける。自分の装備の準備や体調管理はすべて自分でするという暗黙のマナーがあった」と高田氏は語る。
ところが最近は十分な装備のないまま参加するボランティアも少なくない。「未経験で装備を持たない参加者のために、ボランティアセンターは捨て手袋やマスク、熱中症対策飲料などを用意する。気軽に参加できるのはよいことだが、ますますボランティアの装備のレベルが下がってしまう」という悪循環に陥る。
マイナスを言えない雰囲気
もう一つ高田氏が心配するのが、ボランティア参加者の精神状態について。「ボランティアは『共感』を大事にするあまり、理屈は嫌われるし、否定的な意見も敬遠される」。その結果、孤立や対立化するボランティアも散見されるという。
被災者とボランティアをマッチングさせるボランティアセンターは、自治体の管理のもと、民間の社会福祉協議会、地域のNPO・NGO、青年会議所などが運営している。「仲の良い同士で集まって話をすることがあるが、考え方の違う人とは交流が無い」縦割りならぬ仲間割り状態になりがちだ。こうした組織体制になる背景として高田氏は「ボランティアセンターに法的位置づけがなく、自治体など行政は社会福祉協議会に任せきりで、実態を把握できていないのでは」と推測する。オープンな組織体制がつくりにくく、外部ボランティアや被災地住民が意見すらできない環境になりやすいという。
「外部から疑問の声があがっても『被災者は喜んでいる。第三者が口を挟む必要はない』と事務局や関係者が応じるだけで、建設的な議論ができない。中身が議論されないまま、多数派と少数派の力関係だけで意見が収れんしてしまう『沈黙の螺旋』が起きている」と高田氏は指摘する。
専門家と自由に議論できる場づくりを
こうした状況を改善するにはどうすればよいか。
ボランティアの質について高田氏は、「特に震災直後の段階では、経験者と初心者がペアを組む」など質向上のしくみを組み込むことを提案する。今後災害ボランティア活動が裾野を広げていくためには、現状のような経験者と初心者の圧倒的な不均衡による弊害は一時的には避けられない。が、高田氏は、問題点を明確にして、皆が意識するようにすれば、影響を最小限にできるし、解決策も見つかるはずだと、前向きにとらえている。
ボランティアセンターの組織体制については、根本的にはボランティアセンターの法的位置づけを確保する法改正が望まれるが、今できる改善策として、「ボランティア活動のあり方やノウハウについてオープンに議論できるプラットフォームの構築」を提案する。現地で活動するボランティアが体験したことや感じたことは有効であることは間違いないが、ある場面では衛生・医療・建築土木・介護・心理など専門家とコミュニケーションが必要な場面も多いと見る。「専門家とボランティアに携わる人とのコミュニケーションを密にして、何か気づいたことがあれば自由に議論できる環境を提供することが急務」と高田氏は指摘する。
少しずつではあるが、改善の兆しもある。
何人かのボランティア参加者が「泥出しの際、床下地材や内装壁に養生したら汚れずに作業ができた」と自身の知見をSNSで共有するようになった。「よい事例が共有されていくことは現状の改善につながっていくはず」(高田氏)。具体的な技術標準を打ち出すボランティア団体も出てきた。「まだまだ基準を一本化するのは難しいが、なぜ、そうする必要があるのという議論は始まりつつあり、ガイドラインなどにつながっていくことが望ましい」(同)。

被災地で活動するボランティア団体は「他団体と方向が違っても何も言わず、無関心を装うことが美徳」とされ、お互いに交流する機会が少なかった。こうした状況に対する問題意識から、熊本地震を契機に「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」(http://jvoad.jp/)など、災害ボランティア団体同士をつなぐNPOの活動も注目されるようになった。
「西日本豪雨の被災地ではまだ災害ボランティア不足が続いている。専門家のアドバイスや被災者の声に耳を傾けて、大いに参加してほしい」。

(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方