2014/12/06
防災・危機管理ニュース
現役消防士・医師らによる防災教育

慶應義塾大学環境情報学部准教授で地震学者の大木聖子氏が主宰するゼミの学生たちが、災害対応の一線で活躍する現役の消防士やOB、医師、企業らから、災害発生直後の救助・救出活動などを学ぶ取り組みが行われている。「命をつなぐポジティブ防災~守る力をすべての人へ」をテーマに、計3日間で、災害への準備やグループ編成、火災への対応、災害の心理学、危険物・テロ災害への対応、災害救護活動、捜索や救助などを学び、最後に総合演習を行う。
講師は、一般社団法人災害対応訓練研究所代表で在日米陸軍消防本部に所属する熊丸由布治氏、岩手医科大学岩手県高度救急救命センター助教で災害医療専門の秋冨慎司氏、消防関係の人材教育や訓練支援などを手掛ける株式会社 タフ・ジャパン代表取締役社長の鎌田修広氏ら。企業では高性能防じんマスクや化学防護服など安全製品を扱うスリーエムジャパンも参画する。
12月4日に行われた最初の講義では、36人の学生が参加。演台に立った熊丸氏は、「災害対応の知識、技術、そして勇気を勝ち取り、助けられる側から、助ける側の立場になってほしい」と今回の授業の目的を説明。続く自己紹介では、参加した学生一人ひとりから「防災を専攻しているが、災害が発生した時、自発的に動けるようになりたい」「人を助けられるスキルを身に付けたい」などの期待が発表された。
紙の模型タワーづくりで危機対応力を磨く
自己紹介に続き課せられたのは、紙の模型タワーづくり。
教室内を5人ずつのグループに分けると、各グループには約20㎝四方の段ボール2枚と、A4サイズほどの厚紙約10枚が配られ、「まずリーダーを決め、ハサミやテープを使って10分以内に高さ150㎝以上のタワーを作ってください」との課題が熊丸氏から言い渡された。ただし、最初の5分間は計画づくりの時間で、実践できるのは残り5分だけ。
スタートの合図が出ると、各グループでは、「厚紙を丸めて柱にしたらいい」「三角の方が強い」「下層の方を多くしなくては倒れてしまう」など、さまざまな議論が始まった。図面を書きはじめたり、役割分担を決めているチームもある。
後半の5分は、会場内の雰囲気が一気に変わるほど慌ただしい。計画通りに紙を丸めても、なかなか土台づくりがうまくいかない。上層階をつくる途中でタワーが倒れてしまうことも…。時折、大きな落胆の声や笑い声が会場に響いた。
見事、完成したのは5グループ。厚紙を丸めた筒を柱にして、1層目、2層目、3層目、4層目とピラミッド型に積み上げた塔、段ボールで土台を固め、あとは厚紙を丸めた筒を直列でひたすら150㎝の高さまで積み上げた塔、曲がったアンテナのように歪な形をしながらもなんとか高さを満たしている塔など。
一見、災害対応には何ら関係がなさそうに思える訓練だが、熊丸氏は「今皆さんにやってもらったことは災害時の状況を再現したもの。災害時には、普段はやらないことを、知らない道具を使って、知らない人たちと迅速に行わなくてはいけない。人命がかかわっているから、スピードが勝負。そのためには、計画づくりやチーム内での役割分担、進捗の管理や計画の見直しなどがしっかりとできるようにする必要がある」と語った。
ゼミを主宰する大木聖子氏は、「学生たちは防災に対する基礎的な知識は十分学んでいる。知識を身につけることと、災害時に実際に行動できることは別だとうことも理解している。この実践的なスキルを身に付けてもらうことで、少しでも自信をつけてもらいたいというのが私の願い」と話す。

2回目の講義は18日、3回目は20日、それぞれ慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスで予定されている。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方