民法は対等な当事者間同士の法律関係を前提としているが、実際の当事者間には交渉力等の格差があるため、特別法や特例法が定められている(イメージ:写真AC)

はじめに

対等な当事者間といっても、実際には交渉力等の格差がある(イメージ:写真AC)

市民社会における私人間の関係を規律する法律である民法は、対等な当事者同士の自由な意思に基づく法律関係を前提として形成されています。しかしながら、実際の社会においては、当事者間には交渉力等の格差が見受けられるところであり、事業者と消費者との間も同様です。

このため、民法の特別法として消費者契約法が制定され、消費者の利益を不当に害することとなる条項を無効としたり、一定の場合に契約の取消しを可能としたりすることなどにより、消費者の保護が図られています。

また、消費者の財産的被害等を回復するための民事裁判手続の特例法として、消費者裁判手続特例法(正式名称:消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律。以下「特例法」)があります。

時折、特例法で定められている共通義務確認訴訟が消費者団体により提訴されたという報道がなされることがあり、見聞きされたことがある方もいらっしゃるかと思います。そこで今回、この特例法の概要について取り上げてご説明します。

特例法の目的、特定適格消費者団体

特例法の目的は「消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害等(略)について、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることに鑑み、その財産的被害等を集団的に回復するため、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行することができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与すること」です(1条)。

消費者契約において消費者が財産的被害等を被った場合において、その被害回復(損害賠償請求等)を裁判手続により行うときには、原則として、消費者が原告となり、事業者を被告として、訴訟を提起するなどしなければなりません。

この場合において、我が国においては、弁護士を訴訟代理人としない本人訴訟が認められているとはいえ、やはり専門的な知見がないと訴訟を遂行し、勝訴することが困難なケースがままあるといえますので、可能であれば弁護士の訴訟代理人を立てたいというのが多くの方の思いであるといえます。

弁護士の訴訟代理人を立てると費用負担が釣り合わないケースもある(イメージ:写真AC)

一方で、弁護士に委任をするとなると、弁護士費用の負担が求められることになり、とりわけ請求額が高くない場合など、仮に勝訴したとしてもコストとリターンとが釣り合わないようなケースも一定程度あり、このため裁判手続による請求を諦めてしまうことも見受けられるところです。

誤解を恐れずにいえば、こういった泣き寝入りを防ぐために、特例法では、消費者個人に代わり、特定適格消費者団体が被害回復に向けた裁判手続を遂行できるようにされています。

この特定適格消費者団体とは、被害回復裁判手続を遂行するのに必要な適格性を有する法人である適格消費者団体として、内閣総理大臣の認定を受けた者になります(2条10号)。